高橋氏 福島復興特措法改定で提案
衆院本会議
(写真)質問する高橋千鶴子議員=26日、衆院本会議 |
日本共産党の高橋千鶴子議員は26日、衆院本会議で、福島復興再生特措法改定案について質問し、原発事故という負の遺産を将来の希望につなげる研究へ、国をあげて取り組んでいくべきだと強調しました。
高橋氏は、同案が福島の復興を掲げながら、提出者の復興相が主務大臣に含まれていないと指摘。経団連が国家的課題解決を目標とする「戦略的研究」や、破壊的イノベーションともいわれる「創発的研究」などを政府研究開発投資に求めていることなどをあげ、「これらの計画は基本構想がうたう『復興を実現するための夢や希望』とは無関係だ」と批判しました。
また、同案によって福島県に特殊法人福島国際研究教育機構を設置し、世界トップレベルの研究者を特別待遇で招致しても、複数の研究機関と雇用契約を結ぶ「クロスアポイントメント制度」によって、福島に居住せず、肩書だけということもありうると強調。同県知事が求めた教育機関としての役割などをどのように考慮するのかただしました。
西銘恒三郎復興相は「司令塔となる中核的な拠点として機構を設立し、関係機関と連携のうえ、検討を具体化していきたい」と述べました。
高橋氏は、今取り組むべきは廃炉そのものであり、トリチウムを除去する技術の確立、放射性物質の動態研究を通した環境回復や医療への貢献など、原発事故の負の遺産を将来の希望につなげる研究へ国をあげて取り組むべきだと求めました。
福島復興再生特措法改定案
高橋議員の質問(要旨)
衆院本会議
日本共産党の高橋千鶴子議員が26日の衆院本会議で行った福島復興再生特措法改定案についての質問の要旨は次の通りです。
原発事故の避難者らが国と東電を訴えた約30件の集団訴訟で、最高裁はこれまで7件で東電の上告をしりぞけ、国の基準を上回る賠償額が確定しました。今夏にも国の責任について統一判断を示すといいますが、原発を推進し、安全審査で合格させてきた国の責任は免れません。賠償基準と現状について直ちに検証し、必要な見直しを行うべきです。
帰還困難区域のうち特定復興再生拠点区域では、今春から避難指示解除が始まります。それ以外の区域については、帰る意向がある人の周辺のみ除染すると聞いています。それで帰還が進むとは到底考えられません。
今月5日、岸田総理は全漁連の岸会長と面会し、アルプス処理水海洋放出について理解を求めました。同日、萩生田大臣名で示した回答書には2015年に福島県漁連と交わした約束を「今後も遵守(じゅんしゅ)」するとあります。それなら関係者の反対がある以上、海洋放出は行わないという理解でよいのか。
このような被災地の現状の中、本法案はどんな意味があるでしょうか。まず、提出者である復興大臣が主務大臣に含まれていないのはなぜですか。
政府が新産業創出等に関する基本計画を定める際には、総合科学技術・イノベーション会議、福島県知事からの意見を聴取し、特殊法人福島国際研究教育機構が、その中核的な役割を担うとされています。主務大臣は基本計画に基づき、7年間の中期目標を作成します。復興庁の設置期限は2031年3月末であり、これ以降はどうなるのですか。同様に、財源確保の見通しについてうかがいます。
次に、基本構想では5分野50のテーマが示されました。福島の復興のために国をあげて推進してきたはずの福島イノベーション・コースト構想との関係はどうなりますか。
経団連は、国家的課題解決を目標とした「戦略的研究」や、破壊的イノベーションともいう「創発的研究」などを政府研究開発投資に求めています。法案では、国際的に卓越した能力を有する人材を確保するといいますが、福島県知事が強く求めてきた教育機関としての役割、研究を通しての人材育成についてはどのように考慮されるのですか。
終わりに、浜通りの住民には原発で仕事をしていた方がたくさんいます。複雑な被災者の思いによりそい、今取り組むべきは廃炉そのものであり、トリチウムの除去をはじめとした技術の確立など、原発事故という負の遺産を将来の希望につなげる研究へ、国をあげて取り組むよう提案します。
( 「しんぶん赤旗」2022年4月27日付)
ー議事録ー
○高橋千鶴子君 私は、日本共産党を代表して、福島復興再生特措法改正案について質問します。(拍手)
原発事故の避難者らが国と東電を訴えた約三十件の集団訴訟で、最高裁はこれまで七件で東電の上告を退け、国の基準を上回る賠償額が確定しました。今夏にも国の責任について統一判断を示すといいますが、原発を推進し、安全審査で合格させてきた国の責任は免れません。賠償基準と現状について直ちに検証し、必要な見直しを行うべきです。
帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域では、今春から避難指示解除が始まります。それ以外の区域については、帰る意向がある人の周辺のみ除染すると聞いています。それで帰還が進むとは到底考えられませんが、お答えください。
被災者にとって、医療、介護の減免措置は命綱です。政府は、二〇二五年度から段階的に終了すると各自治体に通知しました。年金暮らしの高齢者などは、今より収入は増えず、物価高もあって、生活は厳しさを増すばかりです。低所得の固定化に着目した医療、介護の助成制度が必要ではありませんか。
今月五日、岸田総理は、全漁連の岸会長と面会し、ALPS処理水海洋放出について理解を求めました。同日、萩生田大臣名で示した回答書には、二〇一五年に福島県漁連と交わした約束を今後も遵守するとあります。それなら、関係者の反対がある以上、海洋放出は行わないという理解でよいのか、お答えください。
被災地の水産業は、主要魚種の水揚げ減少やコロナ禍の影響もあって、厳しい状況が続いています。歯を食いしばって、ようやく後継者も増えてきたのに、賠償で漁業を継承することはできません。
こうした中、復興庁が全国の学校に送ったチラシには、まるで事故炉を通った処理水と自然界にあるトリチウムがほぼ同じであるかのように描いています。こうした政府の姿勢こそが風評被害になっているのではありませんか。
このような被災地の現状の中、本法案はどんな意味があるでしょうか。
まず、提出者である復興大臣が主務大臣に含まれていないのはなぜですか。
政府が新産業創出等に関する基本計画を定める際には、総合科学技術・イノベーション会議、福島県知事からの意見を聴取し、特殊法人福島国際研究教育機構がその中核的な役割を担うとされています。主務大臣は、基本計画に基づき、七年間の中期目標を作成します。復興庁の設置期限は二〇三一年三月末であり、これ以降はどうなるのでしょうか。
同様に、財源については、昨年十一月の復興推進会議の決定では、復興特会終了後も見据え、外部資金や恒久財源に移行していくとしています。復興特会も二〇三一年三月末で終了しますが、その後の財源確保の見通しについて伺います。
次に、基本構想では、五分野五十のテーマが示されました。福島の復興のために国を挙げて推進してきたはずの福島イノベーション・コースト構想との関係はどうなりますか。
経団連は、国家的課題解決を目標とした戦略的研究や、破壊的イノベーションともいう創発的研究などを政府研究開発投資に求めていますが、基本計画とはこうしたことですか。基本構想がうたう、復興を実現するための夢や希望とは無関係に思えます。
法案では、国際的に卓越した能力を有する人材を確保すると言いますが、世界トップレベルの人材を特別待遇で招致したとしても、クロスアポイントメント制度によって、福島には居住せず、肩書だけということもあります。福島県知事が強く求めてきた教育機関としての役割、研究を通しての人材育成についてはどのように考慮されるのか、伺います。
終わりに、浜通りの住民には、原発で仕事をしていた方がたくさんいます。複雑な被災者の思いに寄り添い、今取り組むべきは廃炉そのものであり、トリチウムの除去を始めとした技術の確立、放射性物質の動態研究を通して環境回復や医療に貢献するなど、原発事故という負の遺産を将来の希望につなげる研究へ国を挙げて取り組んでいただきたい、このことを提案して、質問とします。(拍手)
○国務大臣(西銘恒三郎君) 高橋議員の御質問にお答えをいたします。
医療、介護の助成制度についてお尋ねがありました。
これまで、原発事故により設定された避難指示区域等に居住されていた方について、医療、介護保険等の保険料、窓口負担の減免措置を実施してきました。
本措置については、復興の基本方針において、被保険者間の公平性等の観点から、避難指示解除の状況も踏まえ、適切な周知期間を設けつつ、激変緩和措置を講じながら、適切な見直しを行うこととされており、これを踏まえて、被災者の方々の実態を把握している関係自治体の御意見を丁寧にお伺いしてきました。
今般、本措置の見直しを決定しましたが、関係自治体の御意見を踏まえ、急激な負担増にならないよう、避難指示解除から十年という十分な経過措置を取るとともに、複数年かけて段階的に見直すこととしております。
また、現行の国民健康保険制度等においても、所得の低い方に対して保険料の負担軽減措置が講じられています。さらに、個々の事情に応じた納付相談の実施など、きめ細やかな対応が行われるよう、厚生労働省とも連携して、市町村に対して周知をする予定です。
全国の学校に送付したチラシの内容がかえって風評被害を増大させているのではないかというお尋ねがありました。
風評被害を生じさせないためには、科学的根拠に基づく正確な情報を分かりやすく丁寧に届けることが重要と考えています。
このため、ALPS処理水という専門性が高いテーマについて、安全性等に関する正しい情報を、分かりやすく、できるだけ多くの方々に伝えられるよう、このチラシを作成し、水道水にも通常トリチウムが含まれていることなどを説明しています。
引き続き、風評被害を生じさせないため、政府一丸となって、科学的根拠に基づく正確な情報の発信などに取り組んでまいります。
福島国際研究教育機構の主務大臣についてお尋ねがありました。
機構については、文部科学大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣及び環境大臣が内閣総理大臣とともに共管することとしています。
復興庁設置法上、復興庁の長は内閣総理大臣であり、復興大臣は内閣総理大臣を助けるものとされています。したがって、主務大臣としては内閣総理大臣と規定していますが、機構の運営に当たっても、復興大臣が内閣総理大臣を助けて、復興庁の事務を統括してまいります。
復興庁設置期限後の福島国際研究教育機構の運営についてお尋ねがありました。
機構は、創造的復興の中核拠点として、政府を挙げて、長期、安定的な運営の確保を図ることとしています。
復興庁設置期限後の機構の在り方については、復興施策全体の整理を踏まえ、適切に検討することとなりますが、今後、機構が長期にわたり、必要な研究開発や産業化、人材育成を担うことができるよう、政府一体となって取組を進めてまいります。
機構の財源確保の在り方についてお尋ねがありました。
福島国際研究教育機構は、福島を始め東北の復興を前進させるとともに、我が国の科学技術力、産業競争力の強化にもつながる、創造的復興の中核拠点を目指すこととしています。
その実現に向けて、機構が長期、安定的に運営できるよう、復興特会設置中は復興財源等で必要な予算を確保するとともに、復興特会終了以降も見据え、外部資金や恒久財源による運営への移行を段階的、計画的に進めることとしています。
福島イノベーション・コースト構想における福島国際研究教育機構の位置づけについてお尋ねがありました。
これまで、福島イノベーション・コースト構想に基づく廃炉、ロボット等の研究・実証拠点等の整備、さらには医療関連、航空宇宙などにも拡大された取組を通じて、浜通り地域等に新たに進出した企業と地元企業が連携して研究開発に取り組むなど、産業集積の芽が出始めています。
福島国際研究教育機構は、この福島イノベーション・コースト構想を更に発展させ、各施設等の取組に横串を刺す司令塔として位置づけられております。今後、福島国際研究教育機構を設立することにより、研究開発や産業化、人材育成の取組を更に加速させてまいります。
新産業創出等研究開発基本計画における研究開発等の取組についてお尋ねがありました。
新産業創出等研究開発基本計画は、福島における新たな産業の創出等に資する取組を総合的かつ計画的に推進するために策定することとしています。
機構は、同計画の中核的な主体として、福島を始め東北の被災地における中長期の課題の解決、ひいては世界共通の課題の解決に資する研究開発を推進することとしており、福島を始め東北の復興を実現するための夢や希望となるよう取り組んでまいります。
機構における人材育成についてお尋ねがありました。
これまでの福島イノベーション・コースト構想の取組により、産業化の動きに加えて、大学や高等専門学校等と連携した人材育成や国内外の研究機関等との連携等も進んでいます。これを更に発展させ、司令塔となる中核的な拠点として機構を設立することで、研究開発や産業化、人材育成の動きを加速させていきます。
教育機関としての役割や研究を通しての人材育成については、こうした機構の取組を通じて地域における人材の厚みを増すことにより、今後、関係機関との連携や役割分担、人材の育成や確保に関するニーズ等の状況を踏まえて、更に検討、具体化を図ってまいります。
原発事故の経験を踏まえた研究についてお尋ねがありました。
機構は、福島を始め東北の被災地における中長期の課題の解決、ひいては世界共通の課題の解決に資する、国内外に誇れる研究開発を推進することとしています。
例えば、廃炉作業の着実な推進を支え、災害現場等の過酷環境下や人手不足の産業現場等でも対応が可能な遠隔操作ロボットやドローンの開発、放射性同位元素、いわゆるRIの先端的な医療利用や創薬技術開発等につながる、アルファ線放出核種等を用いた新たな医薬品の開発などの研究開発を進めていくことを想定しています。
また、原子力災害に関するデータや知見を収集、分析し、世界に向けて積極的に発信することにより、風評払拭や、将来の大規模複合災害に備えた、より効果的な対策の構築等に貢献してまいります。
これらの取組により、福島浜通り地域等が原子力災害を乗り越える一助となること、そして、同地域に国内外から優秀な人材が結集し、我が国全体の科学技術力の強化に貢献することを目指してまいります。
以上です。(拍手)
○国務大臣(萩生田光一君) 高橋議員からの質問にお答えします。
国の責任と賠償基準の見直しについてお尋ねがありました。
国の責任については、本年四月から五月にかけて最高裁判所が口頭弁論を開いた後に、判断が示されるものと承知しています。
また、賠償基準については、集団訴訟の判決の確定を踏まえて、今後、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会において、類型化が可能で一律に賠償すべき損害の項目やその範囲等の目安を示す原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針の見直しの要否等について議論されるものと承知しており、専門家による議論を踏まえ、政府として適切に対応してまいります。
福島第一原子力発電所のALPS処理水についてお尋ねがございました。
ALPS処理水の処分については、福島の復興を成し遂げるためには避けては通れない課題です。
引き続き、政府が前面に立ち、処理水の安全性を確保するとともに、風評払拭に向けてあらゆる対策を行うことを通じて、地元の漁業関係者も含め、皆様の御理解を得てまいります。
ALPS処理水の放出に伴う風評影響についてお尋ねがございました。
昨年四月の基本方針の決定以降、被災地の漁業者の皆様などからは、ALPS処理水の放出に伴う風評の影響についての懸念が示されていると認識しています。
こうした御懸念を踏まえ、昨年十二月、政府が取り組む具体的な対策を盛り込んだ行動計画を取りまとめ、その中では、IAEAの協力を得て、科学的根拠に基づく安全性を発信し、安心を浸透させる等の、風評を生じさせない対策や、漁業者の設備投資や販路拡大に対する支援、基金の整備などの、風評に打ちかつための対策など、賠償以外にも様々な対策を講じることとしております。
引き続き、政府一丸となって、これらの対策をしっかりと実行するとともに、対策の進捗や地元の皆様の御意見なども踏まえつつ、随時、対策の追加、見直しを行って、御懸念を払拭してまいります。(拍手)
○国務大臣(山口壯君) 高橋千鶴子議員から、特定復興再生拠点区域外への帰還についてお尋ねがありました。
拠点区域外については、昨年夏、事故から十年が経過した中、自宅に帰りたいという切実な思いにお応えするため、住民の方々の帰還に関する意向を個別に丁寧に把握した上で、帰還に必要な箇所を除染し、避難指示解除を行うという政府方針を決定しました。
帰還する住民の方々の生活環境の放射線量を着実に低減させ、避難指示解除及び住民の安全、安心に万全を期すため、除染の手法、範囲について、十分に地元自治体と協議しながら、検討してまいります。
二〇二〇年代をかけて、帰還意向のある住民の方々が全員帰還できるよう、政府方針の実現に向けて、関係省庁と連携し、取り組んでまいります。(拍手)