高橋氏 盛り土規制法案めぐり
衆院国土交通委員会は8日、盛り土規制法案(宅地造成規制法改正案)について参考人質疑を行いました。日本共産党の高橋千鶴子議員は、相次ぐ盛り土の崩落による土石流災害などを受け、規制区域指定の対象範囲を拡大し、責任の所在を明確にした盛り土規制が改正案に期待されていると指摘。なぜ宅地造成法改正なのかと質問しました。
中井検裕東京工業大教授は「盛り土は宅地造成でかなり行われている」「(同法で)技術的な基準整備がある」などの理由に言及。さらに盛り土による災害を防止するため、「各省庁で連携しなければ(同法の)運用もままならない」と語りました。
高橋氏は、改正案では既存の造成宅地や盛り土などへの対策も可能かと質問。中井氏は、昔の盛り土も対象となるため「新しい技術基準に適合するよう指導できる」と強調。大橋洋一学習院大教授は、現行法による勧告の実例はないが、「(改正案は)改善命令も行える。罰則も強化した」と述べました。
北山和宣大阪府地域政策室長は、府条例で危険性のある盛り土は区域を決めずに全面的に規制しているとして、「国にもできるだけ幅広く規制がかかるようにしてほしい」と語りました。
(「しんぶん赤旗」2022年4月15日付)
ー議事録ー
○中井参考人 東京工業大学の中井でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
私は、昨年の九月から十二月まで、盛土の災害防止に関する検討会というものの取りまとめを仰せつかっておりましたので、そちらでまとめた提言を中心に本日発表させていただきたいと思います。
お手元の資料を御覧いただければと思います。
一ページ目は、委員のメンバーと開催経緯でございますので、こちらは飛ばさせていただきます。委員は、多方面の盛土に関する専門家から構成をされているということでございます。
二ページ目に行きますけれども、提言は、大きくは三つの内容からでき上がっております。
一つ目が、盛土の総点検と関連する法制度の状況。二番目が、危険な盛土箇所に関する対策ということで、こちらは、今回の盛土の総点検で発見された、危険があるというような盛土についてどういった対策をしていけばいいかということでございます。三番目が、危険な盛土等の発生を防止するということで、こちらは、予防の方の仕組みについての提言ということになっております。
三ページ目をお開きください。
まずは、盛土の総点検と関連する法制度の状況でございますけれども、盛土の総点検について概略をお話しさせていただきます。
今回、全国の盛土についての総点検を、これは各地方自治体の方にお願いをして点検をしていただいたということですが、この検討会の開催時点、取りまとめの時点では、全国で総点検の対象箇所になったのが三万六千二百二十六か所、このうち、取りまとめの段階で目視等による点検が完了した部分が二万八千百五十二か所ということで、約八割について目視等の点検完了の報告を受けました。
この二万八千百五十二か所中、法令手続との関係において許可、届出等の手続が取られていなかった盛土、手続内容と現地の状況に相違があった盛土、こちらは、法令手続に沿っていないという盛土でございます。それから、現場の状況について必要な災害防止措置が確認できなかった盛土、こちらは、擁壁ですとか、あるいは水抜き措置といったような部分でございます。それから、盛土の中に廃棄物の投棄が確認された盛土。
こういったいわゆる問題のある盛土がそれぞれございまして、これらは重複しているものもございますが、重複を除くと千三百七十五か所ということで、点検完了の二万八千百五十二か所に対しては四・九%、約五%の盛土が、このように問題がありそうだというものも含めての盛土ということが報告をされました。
これらの全ての盛土が直ちに危険というわけではございません。この中で、まだ目視による点検ですので、もう少し詳細な調査が必要だというような盛土も含まれておりますけれども、この取りまとめの時点では、これら五%の盛土についてはより突っ込んだ措置が必要だということでございました。
それで、関連する法制度の状況ですけれども、盛土はいろいろな法律によって現在規制をされておりまして、まず、国土全体は、国土利用計画法によりまして五地域に区分をされております。それぞれの地域ごとに対応する法律が盛土についての規制を行っているということで、例えば、都市地域ですといわゆる宅地造成等規制法、宅造法と呼んでいるもの、それから、農地については農地関連の法律、林地については林地関係の法律でそれぞれ規制をされているということでございます。
しかしながら、それぞれの法律がそれぞれの目的を持って制定されておりますので、それぞれの中で、例えば許可を必要とするような盛土の規模ですとか、あるいは、それらの許可の基準とか、そういうものが異なっているということがございまして、全国一律の規制にはなっていないということでございます。
これに対して、都道府県あるいは地方自治体の方で条例を作って、いろいろ苦労されながら対応されてきているという状況がございました。地方自治体の方の意見としても、全国一律のきっちりとした盛土に対する規制が欲しいという、そういう強い要望があるということで、それに対応するような形で議論を進めていったということでございます。
次に、四ページ目に参ります。
こちらは危険な盛土箇所に関する対策ということで、先ほど申しました五%の盛土について、基本的には行為者等に対する法令上の措置の徹底ということで、まずは、法令上の適正な手続を取っていないものについてはきっちりとそれを取っていただく、それから、安全が確認されないものについては安全対策を行っていただくという内容でございます。
ただし、それが速やかに行われないような場合には、提言の中でも書いてございますけれども、ちゅうちょなく、行政、地方公共団体に対して、必要な措置、これは行政代執行も含めて取っていただきたい。本来、これらはあってはならない盛土でございますので、安全を確保していただきたいということを強く提言の中で申し上げております。
それから、危険箇所について、対策が完了するまでの間についても、これは周辺の住民の皆さんに被害が及びそうな場合には、きっちりとそれを周知して、監視カメラ等で安全を確保していただくことも提言の中で要望しているところでございます。
五ページ目に参ります。
危険な盛土等の発生を防止するための仕組みといたしましては、まず一番目には、先ほど申しましたように、国土の五地域にそれぞれの規制、盛土に対する規制がございますので、これらを一律の規制として国土に適用されるような形にしていただくということで、これは新しい法制度ということになります。五ページ目の2に、隙間のない規制と書いてございますけれども、ここがそういう意味でございます。
したがいまして、盛土等の安全性の確保については、全国一律の安全基準で当該基準への適合を求めていただきたい。この全国一律の基準で行っていただきたいというのは、全国知事会のヒアリングでも、その中でもそういったような要望が出されたと記憶をしております。
それから、責任の所在の明確化と危険性の確実な除去並びに厳格な罰則ということで、これまで比較的緩い罰則しかなかったわけですが、今回、厳しい罰則、法人に対しては三億円というように聞いておりますけれども、そういった廃棄物処理法の罰則と同程度の厳しい罰則を求めているということでございます。
六ページ目に参ります。
法制度もさることながら、盛土の対策については、これをどう執行していただくかという点が極めて重要でございます。執行していただくのは地方公共団体の皆さんということになります。不法盛土発見時の現認方法、手続等、こういったことについては、国の方でしっかりとガイドラインを整備し、ガイドラインだけではなくて、国からのかなり丁寧な支援をしていただかないと、地方公共団体の方では対応することが恐らくできなくなってしまいます。
したがいまして、ここは非常に丁寧に国の方に、現場で苦労されている地方公共団体の皆さんへの手厚い支援をお願いをしているところでございます。
それから、許可地一覧の公表、現地提示と通報情報の共有ということで、許可地の一覧ですとか、あるいは許可の現地提示等により、これは、住民の皆さんが、ここはおかしな盛土なんじゃないかと通報をしていただくのがやはり一番ということになりますので、そういった環境整備についても配慮をしていただきたいということでございます。
最後に、元々盛土は、建設工事から発生する土の搬出先でございます。それで、これらについてもこの提言では触れておりまして、建設発生土を発生させる発注者あるいは元請業者に対して、搬出先の明確化というようなことを求めております。こちらは、資源有効利用促進法を強化するという内容で是非対応いただきたいということでございます。
その他、廃棄物混じり盛土の発生防止等もございますけれども、時間の方も来たようでございますので私の発表は以上とさせていただきますが、今回、盛土の新しい法律ということで、提言の内容に沿ったものだと理解をしております。是非とも、この盛土の新しい規制を成立させていただけるようお願いいたします。
以上でございます。(拍手)
○大橋洋一参考人 大橋でございます。
このような機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
私がこの法律を見まして、まず一番中心的な課題だと思いますのは、盛土の災害に着目して人命を守る、そういう法律を整備していただきたいということだと思います。
従前の法律を見ますと、様々ありますが、それぞれ、宅地、農地、森林というような利用目的からする限定がありまして、その制度間に規制の隙間があって、今回、その隙間をつかれて、熱海のような悲惨な事故が起きたというように考えております。
そこで、そういうような対象行為を拡大するというような観点からいいますと、従前の宅地造成に加えまして、特定盛土等でありますとか土石の堆積にまで拡大するというのは、これは非常に的を射た対策だというように考えております。
また、従前の宅造法が都市周辺の丘陵部に重点を置いたというようなことがありますが、都市の中心部でありましても、また、山林部、農地部でありましてもこういうリスクはあるというようなことから、また、従前は、自分の足下が危ないとか隣の崖が崩れてくるという、いわばそういう相隣的な規制であったのを、今回の熱海でありますように、自分の上流からリスクが来るというようなことから、そういう周辺でありますとかそうした隣接地域への規制を拡大するというような必要性が問われています。そういう観点からいいますと、特定盛土等規制区域の創設は、まさに目的にかなったものだというように考えております。
こうした観点から、ともかく包括的な規制の仕組みをつくっていただく。今回は、形式上は宅造法の改正というような名目ではありますけれども、やはり盛土のリスクに応じた盛土規制の一般法を是非制定していただきたいというように考えております。
そうした観点から私が注目しておりますのは、この法律が共管になっているという点であります。従前は農地と都市ということが区別されて、そこに隙間が出てきた。ですけれども、今回は両省が手を取り合ってというのは、これは非常に未来志向的な取組だと思いますので、是非そこは伸ばしていただきたいと思います。
二番目に、事実調査の重要性であります。
地方公共団体は、案外自分の足下が見えていないということがありまして、実態をまず拾っていただく。しかし、今、財政難がありますので、そこは非常に厳しいという状況があります。
そういう観点からいいますと、今回の法律で、国庫補助で調査を支える、これは非常に重要な視点だというように考えております。ですから、先ほど中井先生からお話があった全国点検でありますとか、今までの既存の法律の規制区域、今回の調査結果を総動員して、こういう事実調査を行っていただきたいというように考えております。
三番目は、是非、地方公共団体からの要請に応えていただきたいということでございます。
地方公共団体は、これまで残土条例というようなものを作って、新規のこうしたリスクに対して政策課題を発見して、対応してきたわけでございます。しかしながら、条例が持つ限界があります、罰則上の限界もあります。また、地方公共団体の制度間に格差があれば、どうしても業者は甘い方に流れるといいますか、そういうような隙をつかれるような仕組みにならざるを得ないということもあります。また、都道府県が条例を作り、更に市町村が条例を作るというようなことになりますと、全体的に制度の概観性が悪いというような問題も生じてきます。
そういう観点からは、是非ここで一度、全国一律の法律を作っていただきたいというのが法律家から見た場合の願望であります。これは、同じことが全国知事会からの要請としても出ているところでございます。
次に申したいのは、規制の実効性を上げるということであります。
個別規制法を見ますと、規制は全体的にやはり甘かったというような印象を持ちます。また、先ほど言いましたような条例上の限界もございます。また、規制がある場合であっても、裾切り規制といいますか、一定の規模以上を設けることによって、さらに、その規模が大きいというようなことがありまして、結局、規制がなかなか働かない。そういう中で、地方公共団体は法定外行政指導によって対応してきたわけですけれども、こうした任意の、同意に基づく仕組みというのは限界があって、それが結局うまくいっていなかったということだと思います。ですから、是非強度な罰則をつくっていただきたい。
罰則を設けていただくということは、別に権力主義的な思考ではありませんで、そのようなことをすることによって、盛土の政策が重要なんだということを是非制度的にお示しいただきたいということと、抑止力を高めていただきたいということで、そういう観点からいいますと、両罰規定、法人重科は目的にかなったものだと思います。
また、このような罰則が設けられますと、実際、その罰則を伝家の宝刀として背景にすることによって、行政指導自体の実効性が上がる、こういうことも一般的には認められますので、罰則を何が何でも進めるということよりは、むしろ、そういう行政指導の実効性を上げる意味でもお願いしたいと思います。
さらには、事業者が関連してきますので、明文規定にはなっておりませんが、事業許可の取消し等は厳しく対応していただくというようなことは大事かなという気がしております。
それで、この制度を動かす上では、この法律だけではなかなかうまくいかずに、ほかの廃棄物処理法制、土壌汚染、さらには資源の再利用の促進法制というようなものと連携を取っていただく、さらには、国の省庁間の連携を取るだけではなくて、地方公共団体レベルでは首長部局と警察部局の間の連携を取っていただくというようなこと、さらには、それを確実にするような意味で、先ほどお話がありましたマニュアルや人材派遣をしていただくことが大事かと思います。
この法律に見られる規制は二つの局面がありまして、新規の盛土をどのような形で適正にコントロールするかという問題と、既存の盛土に対してどのように対応するかというようなことがあります。そういう点では、許可制の厳格化と改善命令の向上ということがポイントになるかというように思います。
それと、五番目ですけれども、この法律を見て気がつきますのは、地元の説明会の義務づけとか標識の設置とか許可の公表とか、ある意味、非常にアナログな手法が並んでいるわけですけれども、これは、私は非常に重要だと思います。
このような積極的な情報提供をすることによって、市民の交渉力が上がる、市民監視が期待できる、それによって、結局、市民が地域の政策や実情に理解を深め、それが地域の防災能力を高める、こういう循環があるのではないかというように考えております。
最後に、法律が制定された後の話なんですけれども、執行と運用を進めていく上では、この法律では、とりわけ基本方針をどのような形で位置づけるかというような問題とか、あと、非常に重要なポイントが政省令に委ねられているという問題があります。
具体的に言いますと、規制区域の指定、許可の対象規模、中間検査の対象規模とか、技術基準というようなものであります。このようなところにつきましても、是非先生方に、いい意味で監視をお願いしたいというように思います。
最後に、この盛土の問題はまだまだ分からない問題がありますので、今回一回の法律改正で全て問題が解決できるとはなかなか考えにくいところがあります。そういうような意味では、一定期間を設けた後に、その成果を振り返っていただくというような意味での見直し規定は是非入れていただきたいというようにお願いしたいと思います。
以上でございます。(拍手)
○太田猛彦 参考人 太田でございます。
私は、山地災害あるいは森林というのをずっと見てきた、現場を見てきた、その感想を中心にしてちょっと現状をお話ししたいと思っております。
一ページにございますように、実は、今回の盛土、実際には大規模な盛土の大部分は森林山地で行われているということがこの法律の基本になってきたわけでございます。そういう場所では崖崩れとか土砂の流出ということなんですが、もう一度この基本のところを是非しっかりと対応していただいて法案を作成していただきたい、こういうふうに思っております。
そんな観点から、まず最初に、何といっても、現場が傾斜がある場所ですよね。平地に盛土を造るのではない。宅地造成なんかも、もちろん傾斜があるところでやりますけれども、基本的には、通常の盛土は平地を基本にしているということですが、ここは傾斜があるということでございます。
そして、傾斜がある森林というのは、その斜面の表面は大変ルーズな風化土壌層、そこに木が生えているわけでございます。実際に起こっている森林での崩壊の現象を見ますと、その辺りが崩れるのがほとんどでございます。林地に、あるいは山地に造る盛土というのは、そういう自然の、表層崩壊というんですが、そういうものとほぼ同じメカニズムで考える必要があるのではないかなというふうに思います。
最近、非常に災害が多い、雨が多くなっているということでございまして、写真をつけておきましたけれども、ぎりぎりのところで、森林の力で崩壊を防止している。昔は森林がなかったんですが、今は森林が充実しまして、相当止めております。止めておっても雨が更に増えたということで、こういう崩壊が起こっているというところでございます。そういう場所に盛土が基本的に造られる、こういうふうに考えております。
そうしますと、表層のルーズな土砂、これを全部取るという、それだけでも大きな量になってしまいます。その辺りをどうするかということでございます。
それから、実は、その表層崩壊というものは、そこに図示しておりますけれども、へこんだ斜面で起こるわけです。もちろん、地震でも起こります。出っ張ったところが落ちますけれども、へこんだ斜面、降雨ですから、集まります。そうすると、そういうへこんだ斜面というのは盛土の量が多くなるわけですから、そこを狙うわけですよね。そうしますと、そこはへこんだ斜面が崩壊している。写真を見ても分かりますように、へこんだ斜面が崩壊しているということですね。それが崩壊すると土石流化する、こういうふうになっているということでございます。そういうところが、谷や沢が大規模な盛土の適地になっている、こういうことでございます。
そういうところですので、この辺をどう処理するのかということでございます。当然、浸透水が出てくるということでございます。
そういう場所への盛土でございますので、二ページにありますように、山地での盛土というのは不安定な斜面への盛土である、風化土壌層の上への盛土というのは不安定性を増加させる、こういうことでございます。
全部切り取るということができるのか、なかなかそれは大変でございます。平地では盛土のみの安定を考えればいいんですが、斜面上では、風化土壌層を含めた、あるいはそこに入ってくる浸透水の集中を含めた安定を考える必要があるということです。大型盛土の議論では、平地とか、あるいは海岸の液状化のところでの議論が多かったようですけれども、ここでは、風化土壌層あるいはその下の水の機能、この辺りを考えるというのが山地での盛土の一番基本的なところであろうか、こういうふうに思います。
したがいまして、是非、これから作られると思うんですが、盛土の安定には厳格な技術基準が必要である。そして、工事中のチェックのみではなく、将来にわたって、というのは、例えば、盛土は、そのままその上に森林が収まりますと、林地になります。林地になりますと、実は、厳密に言えば、半永久的に厳しいチェックが必要だという感じにもなるわけでございます。
不安定な斜面上への盛土を考えると、また、近年の豪雨の増加傾向を考えると、建築確認のように本当は全部チェックするのがよろしい、私はそういうふうに思っておりますが、この基準を例えば何とか以上としますと、それより下のところでは伐採をしただけの上に積まれてしまうとか、いろいろな問題が起こってくるので、この辺を是非検討をしていただきたい、こういうふうに思います。
そして、森林の保全は不可欠でございます。林地に戻していただいた方がいいのです。そうした場合には、地目が変わるわけではないと思いますので、森林の多面的機能の持続的な発揮というのがずっと今言われておりますけれども、そういうふうに対応していただきたい、こういうふうに思います。
次に、三ページでございます。特定盛土等規制区域の指定でございますけれども、指定区域の参考になるものとして、既に御承知のように、土砂災害特別警戒区域と、それからもう一つ、実は、こちらの対応で区域指定の調査等に係る、土石流危険渓流を含む土砂災害危険箇所というのが国交省の方で調べられているというふうに思います。また、治山事業の推進や警戒、避難に供するということで、山地災害区域というのがあるということでございます。
そういう辺りについて、現在の科学水準で、実は、よく知られている、土砂災害に関するハザードマップ類というのができております。大変信頼できるマップでございます。ですけれども、実は、水のハザードマップに比べますと多少精度は落ちます。それは私たち土砂災害の研究者がサボっている、こうは言わないでください。
実は、土砂災害というのは地下の災害なんです、スタート。水は、あるいは土石流でも、地表に出れば、どこでどのぐらいの量ができると想定すればシミュレーションできます。しかし、中というのは大変重要でございます。なかなか大変でございます。ということもありまして、実は、この特定盛土地域の区域指定というのは、今まで調べられたことの網だけで十分であるとは必ずしも言えません。この辺りのことも是非お考えいただきたいと思います。
そして、三点目、私の話の三点目になりますけれども、やはり運用面についてちょっと危惧がございます。
といいますのは、特定盛土地区の監督官庁として、林野庁とか都道府県、まあ農水省ですね、の林務の関係部局というのが私は考えられるんじゃないかなというふうに思っております。法律的に厳密には私は分かりませんけれども、そういうふうに思っております。
そうしますと、山地、森林というのは、都市地域や農業地域に比較して生産性が低いわけですよね。生産性が低いから、粗放な管理を我々はやっているんです。森林とはそういうものです。そういうところですから、都市や農地に比べれば、関係する人員も、あるいは管理の費用もそれほど大きくはないということです。ですから、例えば林地開発許可制度の適用というのも、やはり森林から見ると、一ヘクタールということになるわけですね。その半分とかもっと小さくという話があっても、なかなかそうはいかないわけです。
そこに、厳しい技術基準が適用される盛土という都市の構造物といいますか、構造物と言いませんね、人工物ですかね、それが設置されるので、やはり検査技術とか、現状というのは例えば森林とか市町村のそういう部署だけではとても難しい、こういうふうに思っております。
さらに、盛土工事は、先ほどから言われていますように、監視とか無許可工事の探索など、人員を要するという管理上の問題もございます。
そういうことで、市町村、さらには県あたりがもう少しこの部分をしっかりと組織をしないと、なかなか今の既存の組織では難しいのではないかなというふうに推測をしております。是非、その辺りのところ、他部局の協力とか、そういうことでやっていただければいいかなというふうに思います。
最後に、附帯の二法案を簡単に読ませていただきました。中井先生の検討会で相当議論されていると思いますので、私は、その辺も含めて、そういう法律も是非作っていっていただきたいな、こういうふうに思います。
以上で私の陳述といたします。どうもありがとうございました。(拍手)
○北山和宣参考人 大阪府の北山です。
本日は、このような意見を述べる場を設けていただいたことにお礼申し上げます。
私の方からは、実際に現場で残土処分など盛土行為の指導に携わっていた立場から御意見を述べさせていただきます。
初めに、大阪府の土砂埋立ての規制状況について説明させていただきます。
今から八年前の平成二十六年二月、大阪府北部の山麓斜面に民間事業者が堆積した土砂、いわゆる盛土が崩落しまして、周辺の道路や農地に土砂が流出、道路が長期間にわたって通行止めになるという事案が発生しました。
幸いにも、崩落時に車両の通行もなかったことから人的被害は発生しませんでしたが、この事案を受けて府としても対応を検討する中で、一つの問題点が挙げられました。それは、残土処分を始めとした土砂の埋立行為の安全確保を主目的とする法律や条例というものがなく、また、開発行為に制限を課す法令は幾つかあるものの、それらは対象となる行為や場所が限定されているため、様々な場所で実施される埋立行為に対して効果的な規制が困難であるということです。
そこで、大阪府としましては、平成二十六年十二月に、府域全体を対象として三千平方メートル以上の土砂の埋立て等を許可制とする、土砂埋立て等の規制に関する条例を制定、翌二十七年七月から施行しまして、土砂埋立て等の適正化に努めているところです。
また、この条例の運用と並行しまして、土砂の崩落などの問題が全国的な課題となっていたこと、さらに、土砂、いわゆる建設発生土は府県境を越えて広域的に移動する特性を有しておりますことから、各府県の連携が必要と考え、その対策などについて情報を共有し、問題解決に資することを目的とした土砂問題対策全国ネットワーク会議を大阪府の呼びかけにより平成三十年に設立して、意見交換等を行ってまいりました。
この会議には、土砂条例の制定府県を中心とした二十三府県の地方自治体がメンバーとなっているほか、国の関係省庁にもオブザーバーとして参加していただいているところです。
このように土砂問題の対策に取り組んでいる中で幾つかの課題が明らかになってきましたが、いずれにしても、地方自治体のみで対応していくことには限界があるために、これまで、関係する都道府県知事ですとか近畿ブロックの知事会等から、国に対して建設発生土の適正処理に関する法制度の整備を要望してまいりました。
大阪府から国に対して要望を行ってきた内容としましては、三点ございます。
まず、一点目としまして、建設発生土は府県境を越えて移動しますことから、それぞれの府県単位では土砂の発生元や搬入ルートを特定することが難しく、一旦搬入が始まってしまうとそれを止めるのは非常に困難であるということから、建設残土の発生から搬出、処理に至る流れを管理し、情報共有できる仕組みをつくること。
二点目としまして、多くの地方自治体で埋立行為を規制する条例が制定されておりますが、許可制であったり届出制であったり、また、大阪府と同様に埋立て等について許可制としている自治体はあるものの、それぞれの許可基準に差があるということ、さらに、条例そのものを設けていない自治体もあるというようなことで、規制の緩い地域に建設発生土が集中するといったおそれもあることから、建設発生土の搬入、埋立て等の行為については許可制として、国民生活の安全、安心を確保できる全国統一的な許可基準を設けること。
最後、三点目としまして、条例で定めることができる罰則については、地方自治法によりまして二年以下の懲役又は百万円以下の罰金という制約が設けられており、これでは不適正な土砂埋立ての行為者に対する抑止力が十分に発揮されないということがありますので、罰則を強化すること。
以上の三点を要望してきたところです。
今申し上げましたように、建設発生土の適正な処理に向けた法制度の整備について国への要望活動など様々な取組を行ってきた中で、この度、盛土規制法の制定に向けた動きが進んでいることにつきまして、関係する皆様に感謝申し上げるところです。
なお、この度の法案の御審議に際して、特にお願いしたいことが一点ございます。
国におかれましては、盛土行為に際して許可が必要となる規制対象エリアを、人家に影響が及ぶ範囲など、限定的に運用することを考えておられると聞いております。
しかしながら、仮に人家等が存在していなくても、道路や鉄道といった公的な施設に影響が及ぶ、あるいは、発生源が山の奥の方であっても、想定以上の距離で土砂が流れ出し、遠く離れた人家にまで影響が及ぶといったことも考えられ、その範囲を想定するのは非常に難しいと思われます。また、大阪府を含め、既に府県域全域を対象として条例を制定している府県もあるため、新たな法律により規制区域が限定されてしまうと、同一の府県内で規制の強弱がまたできてしまう、そして、規制の弱い地域に不適切な土砂埋立てが集中するといったことも考えられます。
このようなことから、法規制の対象とならないいわゆる白地地域というのをできるだけ少なくして、幅広い地域を規制対象にできるように、運用面での御配慮をお願いしたいと思います。
最後に、一刻も早い法律の制定と施行をお願いしまして、私からの意見を終わらせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
本日は、四人の参考人の皆様、お忙しい中、本委員会に御出席いただき、また、貴重な御意見を賜りました。大変ありがとうございました。
早速質問に入らせていただきます。
まず、中井参考人に伺いたいと思います。
まず、一番知りたいのは、なぜこの法案が宅地造成等規制法の改正というスキームだったのかということであります。
六日の政府との質疑の中でも、やはりどうしても、規制される盛土行為の内容とか様々な基準となるべき問題が、現行法をベースというお答えに当然なってくるわけなんですね。
そうすると、やはり期待されていたのはもっと広い範囲、自治体の条例はそうであるように、エリアを指定しないで許可があり、届出がありみたいな、そういうイメージを持っていたと思いますし、また、建設残土の発生から最終処分まで追いかける仕組みや、発注者、元請から始まって責任の所在を明確にした規制ということを期待されていたかなと思うんですが、どうしてこの宅地というところになっちゃったのかということを伺いたいと思います。
○中井検裕参考人 私もその問いについては余り定かではないんですけれども、恐らくは、元々、盛土という行為は宅地を造成する中でかなり行われていたので、そういう意味では、宅地造成法という中にかなり技術的な基準等も整備されていたということで、そこがベースになってということなのではないかなというふうに思っております。
あと、どこが共管というか主管するかというようなことでいきますと、やはりこういった技術者あるいはマンパワーを抱えているところという意味では、都市を担当していた、都市地域に当たる宅造法というのがやはりそこでもベースになったのかなというふうに、これは私、想像ですけれども、思っておるところでございます。
以上です。
○高橋(千)委員 そうすると、法律を具体化していく上で、技術的な理由といいましょうか、基準の決め方とか、それを審査する人の部署の力とか、そういうふうなことを中心に考えたのかなというのは分からなくもないんですね。
ただ、この間も議論をされているように、人家に必ずしも近くなくても、やはり山林からの影響もありますよねということも言われていたし、そのことを当然踏まえるべきだと思いますのと、それから、やはり自然環境の関係、これは、人家と直接結びつかなくても、でも、やはり水源地でありますとか、当然影響があると思うんですよね。
そういう意味でも、そこを含んだものにしていくという必要があるかなと思っているんですが、もう一言、御意見を伺います。
○中井参考人 盛土による災害の防止の検討会でも発言をさせていただいたところなんですけれども、法律の主管はさておき、これは各省で連携をしていただかないと運用もままならないということで、こちらの検討会自身は内閣府の防災のところで各省が集まって行われて、それぞれ御協力いただきながら取りまとめることができたというふうに思っております。
私から最後にお願いとしてそのときに申し上げたのは、是非運用の面でも連携を強めていただきたいと。もちろん、法律ですので主管、共管というのはあろうかと思いますけれども、ここで議論したことは、やはり各省連携、あるいは各分野が連携をしていかなければ盛土についての安全を守ることはできないということで、それは、出席をしていただいていた事務局、省庁の皆さんもそういうことで御理解いただいているというふうに思っているところでございます。
以上でございます。
○高橋(千)委員 ありがとうございます。
確かに、国交委員会でこの法案をやっているわけですが、先生の検討会は内閣府が主催をしておりましたので、そういう意味では連携というのは非常に大事かなと思って伺いました。
もう一度中井参考人とそれから大橋参考人に伺いたいんですが、実は、この法案が、既にある盛土、あるいは法施行前の計画中の盛土に対して、その危険性を可視化して対策を迫るような効果があるのかどうか。期待されるわけですけれども。
今、なぜ宅地造成法なんでしょうかと聞きましたけれども、現行法の中でも安全確保義務があるわけですよね。だとすれば、それがもう少し生きていれば、これまで見てきた災害というのがもう少し抑えられたんじゃないのかという思いがあるんです。つまり、既にある宅地が、そもそもそれは盛土なわけですよね、大きな意味でいうと。中越地震での高町団地や中越沖地震での山本団地、大規模盛土滑動崩落対策事業によって再生した団地がありますが、逆に言えば、安全対策が不十分な盛土でもあったわけであります。
古くは、やはりニュータウンとして造成をされた。しかし、災害が起こったときに、元の造成主がもういない、裁判しようなんという話が出ても、だって相手がいないじゃないなんという議論の場に居合わせたこともあります。
そういう意味で、既にある宅地の安全確保が強化されるんでしょうか。伺いたいと思います。
○中井参考人 この法律ができまして、特定盛土等規制区域が指定されるわけですけれども、指定されると、その区域指定前に行われていた盛土についても規制等の対象になるというように理解をしております。
したがって、まずは土地所有者に保全の義務がかかるということですし、安全な対策が取られていない場合には勧告や指導ということになってまいります。
また、昔の盛土ですので、新しい現在の技術基準に適合しているかどうかについても、これも可能な限り、現在の基準に適合するように指導することができるというように認識をしております。
したがいまして、指定後の盛土だけに適用されるのではなくて、それ以前からの盛土にも適用されると理解をしております。
以上です。
○大橋洋一参考人 今回のこの法律で、確かに、先ほど御質問がありましたように、宅造法の改正という形を取っているんですけれども、実質は盛土にポイントを当てたものとして作り変えているというのが私の認識でして。
しかも、この盛土の問題に対しては、これだけの罰則を盛るだけの強い関心を国として持っているということで、サンクションも置いたというような中での法的な仕組みですので。今まで、ここに勧告と書いてあっても、先ほど申しましたように、実際の実例はほとんどないような運用実態でした。ですけれども、今回は、体制整備をお願いしますということは、勧告も含めて、まして改善命令もですね、きちっとやるときにはやれるような体制を示してくださいということをお願いして、しかも罰則も強化していますので、それはやっていただけるという前提で、今までとはやはりここは一段階上がったということだと思います。
ですけれども、その場合に、既存のものについての対応を厳しくするということでありますと、既にできたものがありますので、その場合の命令発動基準の在り方というようなことについては相当慎重に議論して作らないといけないかなという問題は、ここは非常に難しい問題があるように認識しております。
○高橋(千)委員 ありがとうございました。
最初に中井先生がお話しされたように、昔の盛土も、今の技術基準に合うかどうかやはり見る必要があるとおっしゃったこと、私、そういうつもりで政府に質問したんですけれども、現行法のベースがあるとおっしゃられるので、違いが全然見えてこなかったわけなんですね。やはりそこがあって初めて、本当の意味での安全確保ということになるんじゃないのかな、法律を作った意味が出てくるんじゃないのかなというふうに思っておりました。
大橋参考人が、勧告、ほとんどやられていないんだよとおっしゃったのは、全くそのとおりだと思うんですよね。それこそ、所有者不明土地の問題のときも、勧告を書いたこと自体が大きな意味があるからということを、私、質問したことがありました。本当にそれが、先生おっしゃるように、ちゅうちょなく発動されていって、正しく運用されたらいいなと思っております。
もう一問、大橋参考人に伺いたいと思います。
土砂災害警戒区域、特別警戒区域などの開発規制にも近いスキームになるのかなと思っているんですね。例えば、二〇一四年の広島での土砂災害、安佐北、安佐南の地域ですと、起こってみると、どうしてこんなところに家を建てていたのかなと外から来た人は思うわけです。でも、住民は、県営住宅が建ったので、県が建てるなら安全だと思ったと言っておりました。また、宅地造成される前に沢があったとか、いろいろなことを全く知らずに、そういう情報がなく、ニュータウンだというイメージで入居してくるという状態があるわけですよね。それで、土砂災害警戒区域の指定が追いつかないという行政の事情と、真面目に指定していたらもう住むところがなくなるよとお話しされたのは、実はさっき話題になった呉市の議員さんだったんですね。そうした悩みもあったんだろうと。
ですから、今回の法案によって更に行政の負担も大きくなるとは思いますけれども、やはり土砂災害警戒区域という既存のスキームが効果的に活用されて、相乗効果になって、見える化がちゃんと進んで安全対策になればいいなと思っているんですが、先生のお考え、伺いたいと思います。
○大橋参考人 土砂災害の警戒区域は、土砂が流れてきて危なくなる領域にかけるんですけれども、今回の場合は、上流にあるようなところに盛土がされると困るというような形で、更にそれを拡大するような形での区域設定というようなことになりますので、そういうところはきちんとやっていただくということ。
今お話にありましたように、この問題は、今日は盛土と命の関係で話していますけれども、居住空間というようなものがエリアとの関係でどうなのかという都市法制とも関わるような問題があって、やはり、そちらの方の居住誘導とかそういう仕組みと、こちらの方で出している情報、シグナルをそちらでどう受けていただけるかというところの、先ほどから繰り返している制度間の連携の問題というようなものもあるのかなと思いますので、そういうところをきちっとやっていただくということ。
あとやはり、こういう規制区域をかけるというときは、促進する方もいますけれども、反対の意見も当然出てくるというのが常であります。まあ、反対は主に土地所有権に基づくような主張ですけれども。
ただ、最近、節目が変わったかなと思うのは、地方公共団体レベルでも安心、安全というか、とにかくやはりこういう命を守るということについての関心というのが非常に高まってきて、ほかの法制でも、いろいろな不動産取引の説明義務のところでもこういうことをちゅうちょなく盛り込むとか、いろいろなそういう改正が行われていますので、そういう流れの中で、これもきちっとした区域を設定していただいて、全体として統制を取っていただくことが大事かなと考えております。
○高橋(千)委員 ありがとうございます。
先生は、著書の中で、やはり区域指定をされると、土地の所有者や居住する市民が地価が下がるなどということで、行政担当者が恐れるという指摘をされていらっしゃいますよね。だけれども、災害対策はやはり人命に関わることなので、地価への影響といった考慮は横に置いておき、危険な箇所については粛々と指定を進めるべきとおっしゃっていらっしゃる。それは、非常に私は共感するところでございます。そういう意味もあって質問させていただきました。
同じ趣旨で、せっかくですので、北山参考人に行政の立場から。
やはりこの法案には、残念ながら、必要十分で最小限にということが書かれてあるんですね。やはり私的財産権を過度に制限してはならないということを言っているんですが、しかし一方では、今お話ししたように、やはり国民の命を守らなければいけないということとの関係では、余り過度に規制を恐れてはならないんじゃないかとむしろ私は思っているんですが、いかがでしょうか。
○北山和宣参考人 我々大阪府としましても、まさに、府民の安全、安心の確保ということをまず考えるということで、府の土砂条例につきましても、区域を指定して規制をかけるということではなくて、行為の内容そのもので、全面的に、エリアを決めずに規制をかけるというような手法を取ったところでございますので、国におかれましても、できるだけ幅広く規制がかかるようにしていただけたらというふうに思います。
○高橋(千)委員 ありがとうございました。
太田参考人にも森林の関係で質問を用意しておりましたが、時間になってしまいましたので、申し訳ありません。
本当にありがとうございました。
終わります。