衆院厚労委 活動安定化に期待
労働者協同組合を非営利法人として簡易に設立するため、新たな法人形態を法制化する労働者協同組合法案が衆院厚生労働委員会で、全会一致で可決されました。労働者協同組合は介護・福祉や子育てなどさまざまなニーズに応えていますが、現状では労働者が出資して事業を行う法人形態が存在しません。このため、法人格を持つことで社会的信頼が高まるなど、組合活動が安定することが期待されます。
日本共産党の高橋千鶴子議員は質疑で、同法案で労働者保護のために組合員の労働者性は担保されるのかと質問しました。
法案提案者の日本共産党の宮本徹議員は、組合と組合員が労働契約を結ぶことや、法案成立後に定められる指針で、組合員は事業の従事者で一部の企業組合のような事業者性を有しないこと、労働法規を順守する旨が明らかにされることなどをあげ、労働者保護が図られると答えました。
また高橋氏は、労働契約に基づかない役員について、理論上、総組合員の半分マイナス1人まで役員となることが可能だと指摘し、人数制限が必要ではないかとただしました。
宮本氏は「役員の定数は、総会の議決事項で、役員は総会で選挙される。定款(根本規則)自治のもと、各組合で整理される」としつつ、「名ばかり理事」はあってはならない、専任理事といいながら、実態としては組合の事業に従事させることは法違反だと説明しました。
さらに「指針で役員数について、10人以内とか総組合員の1割以内などの人数制限の定めの考え方が明らかにされる」と答えました。
(「しんぶん赤旗」2020年11月21日付より)
ー議事録ー
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
この委員会、お久しぶりでございます。
労働者が主人公となり、多様な人々の就労を生み、地域課題の解決を通じ、持続可能な町づくりを目指すという目的のもと、本法案が提出されました。私も議員連盟の末席を汚す者ではありますが、先ほど経過をお話しされた桝屋提出者を始め、この間、粘り強く関係団体との調整を続け、今日提出の運びとなりました皆様に心から感謝と敬意を表したいと思います。
本日の日本農業新聞に、日本労協連の古村伸宏理事長が法案の二つの捉え方を述べておりました。一つは、既に取り組んでいる人たちの活動を法的に定義をすること。二万五千人を超える就労者、四百四十億を超える事業の実績が既にあるということ、その方たちにとって、これをきちんと定義をするということの意味というのは本当に大きいと思います。もう一つは、社会的に孤立し就労機会に恵まれない人たちや地域で仕事を起こそうと考えている人たち、こうした方たちの受皿にもなるということ。
かつては、思い起こしますと、失業対策事業、あるいは雇用福祉事業団など、私たちの先輩たちが公共事業の仕事を中心に働く機会を得る努力をしてきました。そうした努力と、地域の子育て、高齢者、障害者、若者など多様な課題、また、コロナ禍の今こそ求められる協同労働、この協同労働が法制化されることの意義は大変大きいと感じております。
では、質問に入ります。
二〇一〇年に続いて、ことしも三月に、まだ懸念が残るとして、日本労働弁護団が声明を出しております。ここでの懸念に応えるものになったと承知をしておりますが、その中から三点伺いたいと思います。
この法案提出直前で二〇一〇年のときには実現しなかったネックは、先ほど大島委員もお話しされましたけれども、労働者性の担保についてだったと思います。組合員が出資し事業を行うという枠組みでは、労働基準法による、使用される者で、賃金が支払われる者、九条に当たるのか懸念が残り、また、労働者には該当しないとされた二〇一八年のワーカーズコレクティブの裁判例もあったという指摘がございました。
そこで、改めて伺いますが、本法案は組合員の労働者性が担保されるのか、伺いたいと思います。
○宮本議員 高橋議員にお答え申し上げます。
労働者協同組合において、事業に従事する一般の組合員が労働者としての保護を受けられないような事態を生じてはならないというのは、高橋議員と認識を全く同じにするものでございます。組合員がチープレーバーとして使われるような事態は絶対に避けなければならないと考えております。その点は、法案の作成過程におきましても、労働者保護の観点から、日本労働弁護団やあるいは労働組合の皆さんとも話合いを重ねてきた点でございます。
法案第二十条において、代表理事、専任理事及び監事を除く組合員との間で組合が労働契約を締結しなければならないとしているのは、このような組合員が組合と労働契約を結ぶ事業の従事者であることを明確にする趣旨であります。組合員の労働者性については、労働契約の締結という事実を踏まえた判断がなされるものと考えております。
また、法案の作成過程におきまして、第一条の文言について、「組合の事業が行われ、」や、あるいは「組合員自らが事業に従事する」との修文を行いました。この修文も、事業を実施するのはあくまでも組合であり、組合員は事業の従事者であるとの考えを明確にすべきとの御意見を踏まえたものでございます。事業に関する第七条なども同様の考えに基づく規定ぶりとなっております。
その上で、組合員は事業者ではなく労働者であることを明確にするため、今後定められる指針等において、事業を実施するのはあくまでも組合であって、組合員は事業の従事者であることや、また、労働者協同組合制度においては、組合員は組合と労働契約を結ぶ事業の従事者であり、基本的に一部の企業組合のような事業者性を有するものではないことという趣旨が明らかにされるものと考えております。
○高橋(千)委員 組合員は事業の従事者であるからこそ労働者性が担保される、そのことを指針においても明確にされるというお話であったと思います。
次に、労働法規の遵守についてであります。
組合員は、労働者であるとともに出資者でもあり、事業の運営に意見を反映させ得る立場であることから、事業の運営を優先する余り、労働法規を遵守しないことになる危険性はないか。あるいは、公共事業などの入札において、競争ですから、入札価格を下げるために賃金額を低く設定することになれば、組合員のみならず、競争相手となる民間業者の賃金相場を引き下げる要因にもなりかねません。
そこで、労働者としての権利を尊重した上で事業を展開していくというのであれば、その旨を理念として定めておくことが適切ではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○宮本議員 高橋議員と問題意識を共有するものでございます。
本法案は、他の組合法を参考に、労働者協同組合の設立、管理等、組織法としての最低限度必要な事項について規定するものでございます。
その上で、労働契約の締結義務につきましては、これまでの長い議論を経て、組合員の保護の観点から特に規定したものであり、労働法制を遵守する趣旨は明記されていると考えているところでございます。
また、賃金の設定などについては、最低賃金の確保等、労働法制の遵守がなされるべきことは当然であります。
同時に、具体的な賃金水準等については、持続可能で活力ある地域社会の実現に資することという制度の究極の目的のもと、組合自治、定款自治の観点から、それぞれの組合の実態に応じて詳細が決められるものと考えております。
なお、本法案成立後、組合の適正な運営に資するよう、厚生労働大臣は必要な指針を定めることとされておりますが、この指針の作成に当たっては、事前に労働政策審議会の意見を聞くこととされていることが本法案の重要なスキームであると考えているところでございます。
この指針におきまして、労働者協同組合が労働者としての権利を尊重した上で事業を展開していくことを明確にする観点から、労働基準法、最低賃金法、労働組合法等の労働法規を遵守するとともに、公正な競争を阻害する活動は行わない旨が明らかにされるものと考えているところでございます。
○高橋(千)委員 今のお答えの中でありましたように、労政審の中で明確にこのことが明記されることをまず期待したい、このように思っております。
それで、役員の人数制限についてなんですけれども、第三条第二項第四号で、議決権の過半数を有する組合員が組合との間で労働契約を締結していればよいとされております。かつ、役員の人数制限の規定はありません。極端な例を言いますと、一千人とか二千人の組合になり、その半分マイナス一人まで役員となることが可能であると。
そうすると、半分は、労働契約に基づかない、つまりは労働法によって保護されない立場になってしまうのではないか、こういう指摘があるわけですが、したがって、役員の数については、例えば総組合員の一割以内などの人数制限が必要ではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○宮本議員 高橋委員おっしゃるとおり、労働法で保護されないいわゆる名ばかり理事のようなものは、名ばかり管理職同様、あっては絶対ならないと考えております。
役員の定数につきましては、総会の議決事項であり、役員は総会において選挙されるわけで、定款自治のもと、各組合において整理されるものと考えております。
その上で、法案第二十条は、代表理事又は専任理事を除き、組合と事業に従事する組合員との間で労働契約を締結しなければならないと規定しており、専任理事と言いながら実態として組合の事業に従事させる事態は、そもそも法案第二十条違反ということになります。
高橋議員が指摘されます法案第三条第二項第四号は専任理事の複数配置を許容する規定ではございますが、それぞれの労働者協同組合の運営実態からそうしたニーズもあるのではないかと想定されたものでございます。
提案者としては、労働者協同組合組織の基本原理からすれば、組合が行っている具体的な事業に全く従事しないような専任理事が組合員の半数近くを占めるような組合は現実的には想定しがたいものと考えておりますが、御懸念のような事態が起きないようにせねばならないと考えております。
他の組合法制においても、役員の上限を条文で規定している例はないものの、監督官庁が示す模範定款などで役員数の考え方を示している例もあります。法案成立後に定められる指針等におきまして、役員の数について、例えば十人以内とか、あるいは総組合員の一割以内などの人数制限の定めの考え方が明らかにされるものと考えているところでございます。
○高橋(千)委員 今、現実的には想定しがたいという答弁がありましたが、普通に考えてそう思うんですよね。やはり、志を同じくして協同労働の組合をせっかくつくろうと思った仲間たちが半分は役員よというのは本来はないことだろう。しかし、理論的に成り立つ以上、最初は本当に少数で始めた組合が、いつの間にか大きな企業とどこが違うのみたいになってしまったときに、そういう問題というのは起こってくるんだろうし、これまでもさまざまあったわけなんであります。だけれども、それは法律がそれを呼び込んでいるわけではなくて、いわゆる皆さんの労働者の自治に本当に委ねることが求められているんじゃないかな。
私は、生協法の議論のときなんかも、生協がスーパーと違わなくなっちゃうんじゃないかというすごい懸念があった。でも、それをこっちが法律で反対するというよりは、やはりみずからの自主的な力で解決していく問題じゃないかという思いを込めて発言をしたことがあって、それと同じかなというふうに思っております。指針の中で模範的なものを示していくという考え方に賛同したいと思います。
それで、最後に、附則第三条、特定就労継続支援を行う組合の特例について。
これは、障害者総合支援法に基づく就労継続支援A型の事業所が、第八条二項「組合の行う事業に従事する者の四分の三以上は、組合員でなければならない。」この規定との関係について論点になったと承知をしております。
附則では、当分の間、事業に従事する者及び組合員、つまり分母にも分子にも算入しないということで整理をされました。この規定が障害者差別にならないかとの指摘もあるわけでありますが、あえてこの規定を設けた意味、必要性について伺います。
○宮本議員 御指摘の第八条第二項は「組合の行う事業に従事する者の四分の三以上は、組合員でなければならない。」としております。これは、事業の繁忙期における人手不足によりアルバイトとして非組合員を事業に従事させる必要が生じた場合等に備え、組合の事業活動に柔軟性を持たせることとした規定でございます。
就労継続支援A型事業を実施する組合においても、就労継続支援に従事する従業者と、就労継続支援を受けている生産活動等に従事する事業の利用者とがともに組合の行う事業に従事する者に該当し、この四分の三以上の要件において算定の対象となります。その結果、利用者であって労働者協同組合の組合員でない者の人数が事業従事者の四分の一を超えることができず、就労継続支援の利用が実質的に制限されることとなります。
しかし、既に労働者協同組合の基本原理に沿って就労継続支援A型事業が行われている実態がございます。私たちも、そういうワーカーズコープさんのお話をみんなでお伺いしたということもございます。
そうした等々を勘案しまして、提案者といたしましては、労働者協同組合であることを理由に就労継続支援事業A型が制限され得る状況は望ましくないと考えました。
そこで、就労継続支援A型事業の利用者については、当分の間、事業従事者に関する人数要件において算定の対象とはしないといたしました。
なお、就労継続支援A型の利用者も、労働者協同組合の組合員となり、事業に従事できるのは当然のことでございます。
以上御説明しましたように、この附則にあります規定は、労働者協同組合においても就労継続支援A型事業が滞りなく行えるよう、あくまで法案第八条第二項の規定に関する計算上の扱いを定めるものでありまして、障害者を差別するような性質のものではないということを御理解いただきたいというふうに存じております。
○高橋(千)委員 ありがとうございます。
障害福祉サービスも仲間であるということで、差別というよりは、むしろ合理的配慮になるのではないかと思います。必要な規定だと思っております。
以上で質問を終わります。ありがとうございました。