ちづ子へのエール住民とともに(質問のエピソードと会議録など)
政策と提案

─いのちを守り、東北の農林水産業を守り発展させるために─原発と核関連施設の集中を生んでいる歪んだ原子力政策をただし、「安全」優先のエネルギー政策へ転換を

二〇〇三年十月十七日 

日本共産党 前衆議院議員      松本 善明

日本共産党東北ブロック事務所    高橋ちづ子

五島  平

佐藤 秀樹

日本共産党福島県委員会委員長    最上 清治

[一]、危険な「原発だのみ」のエネルギー政策で、東北地方への原子力施設の集中は異常な事態

エネルギーは、食料とともに経済・社会の発展の基盤である。日本のエネルギー自給率はわずか五・六%で、自給率を引き上げ地球温暖化対策を進めるためには、エネルギー効率の徹底した向上とともに環境に配慮した自然エネルギー源の開発・活用に本格的に取り組む必要がある。ところが政府が進めるエネルギー政策は危険な「原発だのみ」になっている。

日本に導入された軽水炉型原発は、アメリカの原子力潜水艦用に開発された安全性や経済性は二の次の軍事技術をルーツとしており、過酷事故を回避できない技術上の難点を抱えている。自民党政府はこれまで、「安全神話」をふりまいて原発推進策をとり、世界各国が手を引いているにもかかわらずプルトニウム循環利用に固執して核燃料サイクル政策を進めてきたが、いずれも深刻な行き詰まりと破綻に直面している。

原発の相次ぐ事故と東京電力に端を発した史上最悪の事故隠しと不祥事により、国と電力業界の責任を問う世論は従来の原発政策の転換を強く求め始めている。破綻が明瞭になったプルトニウム循環計画は中止し、原発の危険を増幅させるだけのプルサーマル計画は中止するとともに、既存原発については計画的縮小を進める。

東北地方には、すでに全国の四分の一の原発と核関連施設があり、ますます集中しようとしている。ふるさとを「核のゴミ捨て場」にさせず、東北地方の人々のいのちと安全、そして農林水産業の営みを守るために、日本共産党は全力をあげるものである。

東北地方に集中する原発

日本で運転している商業用原発五十二基(出力四五七四・二万kw)のうち十三基(一一二七万kw)は東北地方にあり、基数・出力とも四分の一を占めている。うちわけは福島県の東京電力十基(九〇九・六万kw)と宮城県の東北電力三基(二一七・四万kw)である。
しかも建設中及び建設計画の原発が青森県五基、福島県三基の計八基あり、東北地方に原発が集中する傾向が強まっている。現在でも十三基のうち十基は首都圏に送電されているが、計画中の大部分が首都圏へ送電されるものであることも東北地方の特徴になっている。

原子力発電所の運転・建設状況

(電気事業用、2002年8月現在)

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  設置者 発電所名 基数 許可出力
北海道 北海道電力  2基 115・8
宮城県 東北電力 女川原子力  3基 217・4
福島県 東京電力 福島第一、第二 10基 909・6
茨城県 日本原子力発電 東海第二  1基 110・0
新潟県 東京電力 柏崎刈羽  7基 821・2
静岡県 中部電力 浜岡原子力  4基 361・7
石川県 北陸電力 志賀原子力  1基  54・0
福井県 関西電力 美浜、高浜、大飯 11基 946・8
  日本原子力発電 敦賀   2基 151・7
島根県 中国電力 島根原子力   2基 128・0
愛媛県 四国電力 伊方  3基 202・2
佐賀県 九州電力 玄海原子力  4基 347・8
鹿児島県 九州電力 川内原子力   2基 178・0
        (万キロワット)

日本原燃(株)による六ヶ所村の施設<!–[if supportMisalignedColumns]–> <!–[endif]–>

ウラン濃縮工場 1992年操業開始
低レベル放射性廃棄物埋設センター 1992年操業開始
高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター 1995年操業開始
再処理工場(建設中) 2006年操業(予定)※
MOX燃料工場(計画進行中) 2019年操業(予定)
※貯蔵プールの不良ヶ所が291件発見され、操業が延期された

青森県に集中するあらゆる核のゴミと核燃料サイクル施設

とくに青森県の六ヶ所村には、すでに国内の原発から発生する核廃棄物が一極集中している上に、政府が国民の意見を無視して強引に進める核燃料サイクル政策の要の施設である、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す「再処理工場」の操業開始を目前にしている。

 また、青森県のむつ市には、全国の原発で使用済み核燃料の貯蔵プールが満杯になりつつあるもとで、それを集中して貯蔵する、いわゆる「中間貯蔵施設」の建設計画が進められている。

高レベル放射性廃棄物の処分予定地としてねらわれている東北地方

原発の使用済燃料を再処理してプルトニウムを取り出したあとに残る高レベル放射性廃棄物は、六ヶ所村の「貯蔵管理センター」で三十年から五十年間冷却された後、地下三〇〇m以深に埋める計画になっている。

この地下処分地の選定調査でも、東北地方の秋田県・山形県・福島県が対象になっていたことが、判明している。岩手県釜石市では、計画が持ち込まれようとしたため、一九八九年九月に「放射性廃棄物持ち込み拒否宣言」がなされている。

未解明の問題があるイーター(ITER国際核融合実験装置)の誘致は中止する

政府は二〇〇二年、ロシア、EU、カナダ、日本、中国、アメリカ、韓国の七極で共同開発する計画の国際核融合実験装置(ITER)を、青森県・六ヶ所村に誘致することを表明した。日本共産党は核融合の実験・研究を否定するものではないが、イーターで使用するトリチウム(三重水素)の環境と人体への影響は未解明であるばかりか、言われている五千億円~一兆円から費用が膨らむ可能性があり、青森県がインフラ整備に約四百億円もの税金をつぎ込むことにも賛成できない。六ヶ所村に核のゴミが残されることは明確であり、イーターの誘致計画は中止する。

このように、政府の原子力政策の歪みは、東北地方に最も集中して現れようとしている。

原発被害に「県境」はない 大事故があれば東北地方のどこでも被害の危険が

 チェルノブイリ事故では、関連が疑われる人も含めると死亡者は五万五千人とされているが、放出された放射性物質が風に運ばれて原発から三百km離れたところまで汚染し、人が住めなくなっている。東北地方の十三基の原発から三百kmで半円を描けば、東北地方はもとより首都圏から東海地方までがすっぽり入ることになる。六ヶ所村の再処理工場は、どの工程でも極めて多量の放射能を抱え込み、原発以上の大事故につながる危険性を持っている。

「安全神話」こそ安全の障害

 東京電力に続き東北電力でも長期間にわたり原発事故隠しをしていたが、原発の安全性を根本から損なう重大な事件であった。問題の根本には、電力会社だけでなく政府や国の機関にも、「安全より経営優先」があり、その背景には原発は安全で、大事故は絶対起こらないという「安全神話」にとりつかれていることがあった。「原発は危険」から出発し、「安全神話」を一掃して、安全最優先が求められている。

[二]、国民の安全を守るために―日本共産党の提案

一連の原発事故隠し事件と東北地方で住民の声を無視して進められている核燃料サイクル政策の問題をふまえて、東北地方の人々と力をあわせて次の政策の実現をめざす。

(1)安全確保のために、独立した原子力規制機関を確立する

  

 今回の東京電力をはじめとする電力業界の事故隠しは、二年前のゼネラル・エレクトリック・インターナショナル社の元社員の告発がなければ、発覚しえなかったものであった。原子力安全・保安院が事故隠しの対策をとれないことが明らかになった。それは原子力利用の安全を確保するために役割を発揮しなければならない保安院が、国際条約に違反して原発の推進機関である経済産業省の一部門に組み込まれ、最終的な決済権は経済産業大臣が握っているからである。

「原子力の安全に関する条約」では、原子力を推進する部門と、規制する部門をわけることをさだめている。国際原子力機関の勧告にもとづいて、安全確保のための独立した規制機関をただちに確立する。

(2)六ヶ所再処理工場の稼動とプルサーマル計画をやめ、核燃料サイクル(プルトニウム循環方式)という危険きわまりない政策を中止する

プルトニウム利用を進めようとする政策は、高速増殖炉によるプルトニウム利用が「もんじゅ」の事故などで破綻した上に、軽水炉によるプルトニウム利用であるプルサーマル計画も福島・新潟などの地元自治体からきびしい中止要求をつきつけられている。 

使用済みウラン燃料からプルトニウムを取り出す再処理は、使用済み核燃料の再処理から、プルトニウム燃料による発電、使用済みのプルトニウム燃料の再処理まで、あらゆる段階で深刻な危険がともない、技術的にも見通しがないものである。また、青森県六ヶ所村の再処理工場については、四十年間で処理費用が約十五兆九千億円と報道され、安全性の問題に加えて、世界一高いコストにより経済的に成り立つかどうかが疑問視されている。

再処理工場の稼動、プルサーマル計画は止めて、核燃料サイクル政策そのものを中止する。

(3)地震による「原発震災」をくみいれ、原子力防災対策を抜本的に改めると同時に、全住民に広報し徹底をはかる

耐震設計審査指針を見直し、既存原発の総点検を行う

世界で地震をきっかけにした過酷事故はまだ発生してはいないが、日本は地震国であり、また日本列島は活動期に入ったといわれている今、日本では地震をきっかけにして過酷事故の発生する危険性が原発のある他のどの国より高いといえる。

とりわけ、東北地方では過去大きな地震が相次いでいるだけでなく、政府の地震調査委員会が発表した、今後三十年以内に起こる確率の高い大地震も一位が宮城県沖で九九%、二位が三三陸沖北部で九〇%となっている。

しかし、原子力委員会は「地震と原子力災害が同時に起こる可能性は無視し得ないほど小さい」としている。そのため、原発と核燃料サイクル施設を対象とした原子力災害対策計画には、地震による災害を想定していないので、急いで改訂することが必要である。

すでに兵庫県南部地震(M七・三)は、日本で最大の地震に備えて設計された浜岡原発三~五号機の設計値を超えた。耐震設計審査指針の見直しを急ぐ。

老朽化と性能劣化が進んでいる既存原発については、総点検する。安全が危ぶまれる原発については、運転停止を含めた必要な措置をとる。

インシデント報告制度を確立すること

過酷事故は何をきっかけにして発生するかわからない。一つの大きな事故の背後には、たくさんの中事故と小事故が発生しているという。大事故を防ぐには、この小事故・中事故を一つひとつ究明することが過酷事故を未然に防止する最低の責務である。そのために、小さな事故を隠さず、その情報を共有するインシデント(事故につながりかねない事態の発生)報告制度を確立する。

東京電力に続いて東北電力でも原発損傷隠し事件が発覚した際、東北電力の社長は「原子力関係の話は私が聞いても分からない専門分野が多い。まして地元には分かりにくい。分かりやすく伝えたい気持ちはあるが、出せばいいというものではない」と主張したが、情報隠しを正当化し安全確保への責任と自覚を欠いたこのような姿勢は許されない。

緊急時に実効性ある防災対策をとること

1979(昭和54)年3月に発生したアメリカのスリーマイル島原発の大事故を受けて、初めて「原子力発電所等周辺の防災対策について」(防災指針)が定められ、これに基づいて原子力施設所在地では「地域防災計画」の「原子力対策編」として防災対策の策定が義務づけられた。2000(平成12)年5月、前年発生したJCO事故を受けて、防災指針は名称も「原子力施設等の防災対策について」となり、改訂された。

しかし、この防災指針は依然として「過酷事故は起こりえない」ことを前提としているため、(1)環境中へ放出される放射性物質を限定し、炉心に蓄積されるストロンチウム、セシウム、プルトニウムなどが想定されていないこと、(2)防災対策地域の設定が、半径8~10kmと狭いこと、(3)緊急時医療では、大勢の被曝者の放射能除染などの対応がとられていないこと―など、重大な問題がある。核燃料サイクル施設に多量の放射性物質を抱え込む青森県なども全く同じである。

いざという時のヨウ素剤も、保育園、幼稚園、学校、病院などをはじめ主要な公的施設に分散して配備する。

原子力防災訓練については、地震によって交通・通信手段が破壊されている一方で、放射能汚染が同時に襲った場合を想定したマニュアルつくりを急ぐ。

(4)原発労働者の被ばく線量の軽減をはかると同時に、被ばく治療の充実、労災適用の明確化と拡大をはかること

平成十四年版(平成十三年度実績)原子力施設運転管理年報によれば、全国五十二基の原発の放射線業務従事者は電力会社の社員が八千六百十一人にたいし、下請け企業が五万九千六百五十人で、その比率は一対九である。東北地方では福島第一原発(六基)が社員八百六十一人、下請け従業員八千二百八十人である。同じく福島第二原発(四基)が五百四十五人と六千百十六人、女川原発(この年は二基)は四百五十一人と二千九百六十三人である。青森県の日本原燃(株)濃縮・埋設事業所が百九十人と四百五十八人、同じく再処理事業所が二百七十七人と九百三十八人である。

ところで、白血病による労災認定は (1)業務により被ばくした集積線量が〇・五レム以上であること (2)被ばく開始後一年を超えてから発生していること (3)骨髄性白血病またはリンパ性白血病という条件を満たしていること、とされている。平成十四年度版原子力安全白書によれば、認定要件の(1)を満たしている原発労働者は二〇〇一年度には社員が三十八人、下請け従業員が四千二百九十人で合計四千七百四十四人もいることになっている。ところが、原発労働者の労災認定は発表されていないが、六人とみられる。 

原発労働者の被ばく線量を軽減し、被爆治療の充実を進める。白血病以外のガンを労災認定の疾病に含めないこと自体きわめて不当であり、また白血病となっても労災認定が極端に少ないことは問題であり、ただちに改める。

(5)、省エネを進めるとともに、風力・太陽熱・バイオマス(生物資源)・水素(燃料電池)・小型水力など、再生可能でクリーンなエネルギー源の開発に力を入れる

電力会社の儲けのための原発推進政策を改めて、省エネルギー、新エネルギー技術の開発に力を入れる。

小泉内閣は、「今後、二〇一〇年度までの間に原子力発電量を二〇〇〇年度と比較して約三割増加することをめざした原子力発電所の新増設が必要である」とする方針を確認するなど、政府はなお原発大増設路線を捨てていない。また、政府が策定中の今後十年間の「エネルギー基本計画」(二〇〇二年に成立したエネルギー政策基本法に基づく計画)は、法律が地方公共団体の責務を規定しながら、地方公共団体の意見を聴くことなく制定された。

今回の東電の事故隠しによる事態をみても、原発への依存増大こそが「安定供給」に危機をもたらすことを示した。電力会社が原発にしがみつく背景には、高額な設備投資(原発一基で四千億円前後)をすれば、それだけ大きな利益を確保できるという電気料金制度のしくみがある。

原発全廃を決めているドイツでは、省エネルギーとともに、風力発電などの自然エネルギー開発に積極的にとりくんでいる。ところが、日本のエネルギー関係予算は、原子力に四千三百六十億円つぎ込む一方、新エネルギー対策は千六百億円以下である。

政府資料から日本共産党の吉井英勝衆議院議員が試算した結果によると、日本の新エネルギーの潜在量は、電力会社の総供給量に匹敵する。風力、小水力、波力、地熱や、畜産や林業など、地域の産業と結びついたバイオマス・エネルギーなどは東北地方に豊かに存在するエネルギーであり、開発・活用に本格的に取り組む。

こうした地域に固有のエネルギー源の開発は、電気やガスの「収穫」で新たな収入が生まれ、雇用や技術、副産物の還元などで地域経済に活力を与える可能性ももっている。これを促進するために、電力会社に買い取りを義務づけ、事業者に意欲をわかせる売渡価格を設定すべきである。マイクロ水力発電を促進するために、もともとの利水目的にあわせて発電後も使用できる水利用として、水利権の合理的な調整につとめる。

以上

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