政策と提案

諫早湾干拓事業の開門調査と調整池の水質改善対策に関する質問主意書

平成17年7月6日提出

赤 嶺 政 賢

高 橋 千鶴子

吉 井 英 勝

 

佐賀地裁は昨年八月二十六日、漁業者の訴えを認め諫早湾干拓事業の工事差し止めを決定したが、福岡高裁は今年五月十六日、決定を不服とした国の保全抗告を認め工事差し止めを取り消した。国はこれを受け、ただちに工事を再開したが、一方で福岡高裁が指摘した「中・長期開門調査を含めた有明海の漁業環境の悪化に対する調査、研究を実施する責務」は放棄したままになっている。国は福岡高裁の決定からわずか二日後に工事を再開したが、有明海沿岸の多くの漁業者が工事現場入り口で座り込みを行う等、工事中止と開門調査の実施を求めて抗議行動が続いているのは当然である。

 二〇〇〇年度(秋から翌年春までのノリ養殖年度、以下同じ)に発生した有明海の養殖ノリの凶作は、ノリ漁業者のみならず、地域経済に大きな打撃を与えた。二〇〇一年度以降、小泉首相や島村農水相などは「ノリは豊作だった。史上最高で、価格水準は下がっていない」などの発言を行っている。しかし、ノリ漁業者の実感は全く異なり、「実際の収量は減っていて、増えたように見えるのは、これまでならノリ網を撤収していた時期になってもノリ漁を行うなど努力をしたからだ。値段も下がっている」と口々に訴え、ノリ養殖だけでは生活が成り立たなくなって他に生計の糧を求めたり、最悪の場合は自殺にまで至ったりする事例も多く起こっている。二〇〇〇年度の凶作の際に受けた融資の返済も始まっているが、返済の元手となるノリの生産量や販売金額が回復しないため、漁業者の生活を圧迫し、根本的な救済を求める切実な声も数多く届けられている。

 よって、次のとおり質問する。

(一)国から提出を受けた資料を基に、有明海のノリ共販の終了日と、一九九五年度を一とした共販枚数・共販金額・一枚あたりの金額の比を別表に整理した。共販の終了日はノリ養殖の終了日を示す目安となるものである。共販の開始日は毎年十一月二十日前後で変わらないが、凶作の年と翌年は一ヶ月以上も延びている。昨年度も約一ヶ月延びており、この十年間に終了日は一ヶ月近く延びていることになる。これは漁業者が努力してノリ漁期を延ばしているという訴えに符合するのではないか。

(二)漁業者が努力して生産日数を延ばしているにもかかわらず、ノリの生産量と販売価格は決して高くなってはいない。一九九五年度を一とすると、枚数比では大牟田漁連は二〇〇三年度に〇・四七となり、福岡県全体では三年続けて一を下回る結果となっている。販売価格では二〇〇一年度以降、大牟田漁連は二年続けて〇・四台、福岡県全体で〇・七台が二年続き、昨年度も一を下回っている。長崎県はずっと〇・八台である。ノリ一枚当たりの販売金額についてみると、諫早湾が潮受堤防によって完全に閉め切られる一九九七年度までは、いずれも一を上回っていたが、その後下落に転じ、昨年度は有明海全体でも一未満である。とりわけ福岡県と佐賀県は深刻である。価格は品質も反映する。福岡高裁の決定を受けて島村農水相は、定例記者会見で昨年度の有明海の養殖ノリについて「これは史上最高で、むしろノリは豊作に転じた。有明海のノリの価格水準は下がっていないので、できている品物も悪くない。諫早湾干拓事業がノリ養殖をめちゃくちゃにしたという非難は、全く当たらなかったのではないか」と発言しているが、島村大臣は以上のことをすべて承知した上で発言したのか。国は数字にも明確に現れた実態を直視し、償還金猶予など漁業者の生活を守る措置を講ずべきではないか。

(三)国は中・長期開門調査を実施しない理由について、「調査を実施することにより漁業環境に影響を及ぼすこと」と、「調査によって得られる成果が必ずしも明らかでないこと」をあげている。漁業環境に影響が出る可能性については、排水門を全開にした場合、排水門とその周辺で洗掘が起こり、それによって発生した濁りが諫早湾外にまで広がると、シミュレーションに基づいた説明を行っている。このシミュレーションの報告書を見ると、その濁りは有明海において通常発生する濁りであり、漁業被害が発生するとはとうてい考えられないという研究者の見解もある。我々が求めている排水門の常時開門とは、排水門ゲートを常に全開にして行うことだけを意味しない。また、開門調査を求める多くの漁業者は、「慎重な開門方法による調査によって仮に漁業被害が発生してもそれを甘受する」と表明している。技術的に考慮すれば、排水門とその周辺で洗掘を生じさせない排水の方法、その後に全開にする方法もあるはずである。国はそのことを何ら検討していないのか。

(四)有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会(第三者委員会)はその見解の中で、「諫早湾干拓事業は重要な環境要因である流動および負荷を変化させ、諫早湾のみならず有明海全体の環境に影響を与えていると想定され、また、開門調査はその影響の検証に役立つと考えられる。調査に当たって、開門はできるだけ長く、大きいことが望ましい。洪水・潅漑期以外は水位管理の条件をゆるめ、できるだけ毎日の水位変動を大きくし、できる干潟面積を増やすことが望ましい」と述べている。中・長期開門調査に取って替わる「調査」や「現地実証」は、第三者委員会が求めた開門調査にふさわしいものなのか。代替調査によって、諫早湾干拓事業が有明海に与えている影響をはじめ、有明海の環境悪化の仕組みがすべて解明できると考えているのならば、その理由と根拠を示されたい。

(五)中・長期開門調査に取って替わる「調査」や「現地実証」の費用は、干拓事業の事業費に含まれるはずである。二〇〇一年度に行った二度目の計画変更により干陸面積が縮小され、総事業費は二四六〇億円になったが、新たな調査が加わることによりこれを上回ると考えられるがどうか。今のところ総事業費はいくらになると見積もっているのか。

(六)二〇〇三年九月二十六日提出の質問主意書(一五七国会質問第九号)において、これまでに要した事業費額と今後要すると見込まれる事業費額とに分け、国・長崎県・受益農家それぞれの負担額について明らかにするよう求めたが、これに対する答弁書では「今後、決定する予定である」となっている。以来、一年半あまりが経過しており、検討を加える時間は十分にあったはずであるが、どうなったか。いまだ決定していないとすれば、いつ決定することになっているのか。農地配分価格の基準となる潮受堤防以外の工事(一般型)の、それぞれの年度別負担率は定まっているのではないか。

(七)半年以上の工事の中断によって、農地整備は予定よりも遅れていると聞く。当然、営農の開始も遅れると考えられるが、農地としての共用は具体的にいつ始める予定か。

(八)諫早湾干拓調整池水質保全計画(第二期)では、水質保全目標値はCOD(化学的酸素要求量)五ミリグラム/リットル以下、全窒素一ミリグラム/リットル以下、全燐〇・一ミリグラム/リットル以下と定められている。いまだこの目標値は達成されていないがなぜか。国は「事業完了時には、環境保全目標を達成できるよう努めてまいりたい」と前記答弁書で答えているが、事業完了時とは具体的にいつをさすのか。達成できなければ、事業者としてどうするのか。

(九)調整池に貯留されている水の多くは流入河川水に由来するので、一般的には最大の流入河川・本明川の水質を反映することもありうると考えられるが、実際のモニタリング結果はそうではない。水質の代表的項目の一つCODについて、農林水産省等のモニタリング結果をグラフ化するとグラフ?のようになる。この結果は、本明川のCODの数値は経年的に低下する一方、調整池のCODの数値は経年的に高いまま安定していることと、将来的にも低下しないことを示しているのではないか。また、本明川以外の流入河川水が影響しているというなら、その根拠を示されたい。

(十)農水省のモニタリング地点「B1」と「B2」における一九九二年度からのCOD・全窒素・全燐の数値をグラフ化すると、グラフ?のようになる。一九九七年度以後、それぞれの数値が急激に目標値を上回り元に戻らないのは、一九九七年四月の潮受堤防による諫早湾締め切りによって広範囲の干潟を失ったことにより、かつての浅海域の水質浄化機能が一気に失われたからではないのか。

(十一)国に求められるのは調整池の現在の水質保全ではなく、目標値以下までの改善である。それには干潟域の回復と調整池への海水導入が最も有効であると我々は確信している。今年度工事が予定されている調整池の中の「潜堤」について、前記質問主意書で、調整池の水が滞留する恐れと開門調査の妨げになることを指摘した。これに対する答弁は「底泥の巻上げと、これに伴う燐等の濃度上昇を抑制するものであり、調整池の水質保全の効果を有する」というものであった。しかし、今年三月七日に開かれた「諫早湾干拓調整池等水質委員会」において、潜堤の効果については出席委員から「効果については具体的に言えるものは何もないのではないか」という意見が出され、それに対する農水省の答えは「今後、種々の対策を実施する中で観測データの分析を進め、効果を検証していきたい」と、検討課題であることを明らかにしている。現在の調整池のCODの数値は目標値を著しく上回るが、潜堤はCODの改善について効果はないのではないか。効果があるとすれば、その根拠を明らかにされたい。

(十二)南北両排水門のすぐ外側に設置予定の導流堤(海域環境施設)の目的について、二〇〇三年七月十日提出の質問主意書(一五六国会質問第一二五号)への答弁書では「調整池からの排水を潮受堤防設置前のミオ筋(流路)の方向に近づけること」と述べている。ところが、同年六月二十四日、農林水産大臣が九州地方整備局長宛提出した河川協議書の中では、導流堤の目的は「海域環境への一層の配慮を目的とし設置するもので、本施設の設置により、調整池からの排水を諫早湾浅海域にあるアサリ漁場など、漁業資源上有用な海域から遠ざけることにより、浅海域への浮泥等の沈降を抑制させるもの」と記され、同様に同年六月十六日、九州農政局諫早湾干拓事務所長が長崎県知事宛提出した公有土地(水面)使用許可申請書においては、その目的は「海域環境への影響に配慮し、浅海域への浮泥等の沈降を抑制するため」と記されている。このように、答弁書と他の行政庁への提出文書に記載された導流堤の設置目的は全く異なるが、どういう経緯で目的を変更したのか。それとも答弁書が誤っているのか。

(十三)前記一五六国会提出の質問主意書において、二〇〇一年十月からの約半年間、北部排水門からの排水を止め、南部排水門からの排水だけになっている不自然さを指摘し、これは「調整池からの排水がノリ漁場に直接影響を与えないような操作ではないか」と質問した。その答弁書では、「北部排水門から約四キロメートル離れた場所で流し網漁を操業していた漁業者による苦情があり、関係漁協と調整を図った結果」と答えている。南部排水門に偏った排水はこの時だけでなく、若干の例外日を除き、二〇〇四年七月四日から同年十月一日までの約三ヶ月間と、二〇〇四年十二月十三日から二〇〇五年三月十七日までの約三ヶ月間の二回ある。北部排水門を閉じ南部排水門だけからの排水は、調整池からの排水が諫早湾北側から有明海の北側に及ばないことを目的としたものなのか。諫早湾内の漁業者から、汚染された排水が漁場に及ばないような操作をしてほしいとの申し出があったのか。経緯を示されたい。

(十四)去る六月二十三日、九州農政局において六社の参加による北部潜堤工事と、七社の参加による南部潜堤工事の二つの指名競争入札が行われた。どちらの入札とも、一回目の札入れでは全社予定価格を上回ったのでもう一度札入れを行ったが、またも全社が予定価格を上回って落札者が決まらず、当日は「不落」となった。六月二十七日に、九州農政局は入札参加者の中で北部潜堤工事では最も安い札を入れていた熊谷組と、南部潜堤工事では最も安い札を入れていた奥村組とそれぞれ「協議」を行い、二日後の二十九日に「見積合わせ」を行ったというが、間違いないか。この協議の目的と内容は、どのようなものであったか明らかにされたい。

(十五)協議と見積合わせの結果、六月二十九日に北部潜堤工事は随意契約により四億三千五百万円で熊谷組に落札した。予定価格は四億三千七百八十五万円で、落札率は九十九・三%という高率である。同日、南部潜堤工事は四億六千万円で奥村組に落札した。予定価格は四億六千六百三十五万円で、落札率は九十八・六%である。このように競争入札で、再度の入札をしても落札者がいない場合に随意契約を行う「不落随契」は、予算決算及び会計令の規定にも定められている。しかし、国土交通省は二〇〇三年九月、「入札の競争性の一層の向上を図ることにより、不落随契が競争入札によることが無理な場合の真にやむをえない措置」となるような対策を講ずるよう、各地方整備局に通知し徹底を図っている。防衛施設庁も不落随契を原則廃止し、自治体においても不落随契を廃止している所もある。今回の潜堤工事入札での不落随契が、真にやむを得ない措置だったという理由は何か。随意契約は、競争性と透明性の確保という点では問題がある。農林水産省は、不落随契に対しどのような対策を講じているのか。

 右、質問する。

 

 

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