国会質問

質問日:2019年 5月 17日 第198国会 厚生労働委員会

児童虐待防止法等改正案

児童虐待防止/体罰の完全禁止必要/高橋氏が主張

 日本共産党の高橋千鶴子議員は17日の衆院厚生労働委員会で、政府の児童虐待防止法等改正案について、いかなる体罰も完全に禁止することが必要だと強調しました。
 高橋氏は、国連子どもの権利委員会が、体罰を明示的かつ完全に禁止することを求めていると指摘。世界で全面的な体罰禁止が進むなか、体罰を肯定する親の割合が大きく減少し意識が変わっていると紹介しました。
 根本匠厚労相は、政府案が禁止するのは体罰と、「監護および教育に必要な範囲」を超える懲戒だと答弁。高橋氏は、体罰の一部が懲戒として容認されてきたとし、政府案が参考にする学校教育法11条でも区分は曖昧だと指摘。文部科学省は、生徒や保護者の主観のみでなく「客観的に考慮して判断する」としました。
 高橋氏は「体罰を受けた生徒が、つらかった、やめてほしかったと訴えても、それは生徒の主観で身体が大きいから痛くないはずだなどと言って、認めないことでいいのか」と指摘。また、「肉体的苦痛」でないものは体罰と認められないことも問題ではないかと述べました。
 高橋氏は親権者の懲戒権を認めた民法規定の削除を要求。門山宏哲法務政務官は「削除も含めさまざまな選択肢を視野に検討される」と答えました。
 高橋氏は、虐待体験を公表した女性が「他の家のことを知らないから、自分が虐待されているとわからなかった」と語っていると紹介。教育でも「親であっても子どもをたたいたらだめ」と教える必要があると述べました。
( しんぶん赤旗 2019年05月18日付より)

―議事録ー

○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
 今回の改正の焦点の一つが、体罰の禁止です。国連子どもの権利委員会は、どんなに軽いものであっても、全ての体罰を明示的かつ完全に禁止することを求めています。法律に書いただけでは変わらないという意見もありますが、しかし、法律に書いたことでやはり体罰が大きく減ったということは、国際的にも証明をされています。
 NPO法人子どもすこやかサポートネットの調査では、全面的に体罰を禁止した国は今、世界五十四カ国に上っています。スウェーデンでは、体罰を肯定する親が一九六五年には五三%もありました。七九年の法改正を挟んで、九九年には一〇%へと減少しています。フィンランドでは、一九八一年、四七%だったものが、一九八三年に体罰禁止をしたことで、二〇一四年には一五%まで減りました。お仕置きとしての軽い体罰も半減しています。ニュージーランドでは、二〇〇八年、体罰を容認する親が六二%だったものが、二〇〇七年の法制化を経て、二〇一三年調査では三五%に減っています。体罰禁止を法定することが、まず親の意識を変えて、結果として体罰を減らす効果を上げていることが実証されていると言えるのではないでしょうか。
 五月十日の本会議で、私は、児童虐待防止法の第十四条、児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、体罰を加えること、その他民法第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲を超える行為により当該児童を懲戒してはならないとされているのは、体罰の禁止を明記したとしても、監護、教育の範囲内なら体罰を与えてもよいということにならないかと質問しました。
 それに対し、安倍総理は、監護及び教育に必要な範囲を超える行為か否かにかかわらず、全ての体罰が禁止される規定となっており、監護、教育の範囲を超えない体罰を正当化する余地を残しているという指摘は当たらないと答えました。
 最初、耳で聞いたときは、なぜ指摘は当たらないのか、どういう意味で言ったのかなと思ったんですね。字で読むと、超える行為か否かにかかわらず、つまり、範囲内であってもなくても禁止しているんだからいいんだというふうに答えている。
 どうしたらそういうふうに解釈できるのかがわからないので、この答弁の趣旨を明快にお答えください。

○根本国務大臣 体罰によらない子育てを推進するために、体罰禁止を法定化いたしました。
 改正後は、児童のしつけに際して、体罰を加えること、監護及び教育に必要な範囲を超える行為、これがいずれも禁止される規定となっております。ですから、第十四条で、体罰を加えることということと、その他民法の規定による監護及び教育に必要な範囲を超える行為によって当該児童を懲戒してはならずと、こう書いてありますが、要は、体罰を加えるということと、監護及び教育に必要な範囲を超える行為、これがいずれも禁止される、そういうことなのでこういう規定の書きぶりになっております。

○高橋(千)委員 つまり、今のお答えは、体罰はまず禁止している、そのほかに民法八百二十条の規定の範囲を超える懲戒はならない、二つのことを言っているんだという説明だと思うんですね。
 だけれども、体罰は懲戒の一部と捉えられてきたのではないでしょうか。
 一番直近では、三月十五日の初鹿議員の質問主意書において閣議決定された答弁文書は、「現行法令上親権者による「体罰」について定めた規定があるわけではないため、懲戒権の行使として体罰が許容されるかどうかを一概にお答えすることは困難である。」と答えています。
 ということは、監護、教育の範囲内なら懲戒権の行使として認められるものがあると解釈されてしまうのではないでしょうか。

○根本国務大臣 この解釈は民法の解釈ですから法務省ということになりますが、今回のこの規定によって、法務省の答弁を引用させていただきますと、懲戒権の取扱いについて言う答弁がありますが、法務省の答弁を紹介しますと、親権者による体罰を禁止する規定が盛り込まれた本法律案が成立した場合には、この体罰に該当する行為は民法八百二十二条に言う子の監護、教育に必要な範囲には含まれないと解釈され、懲戒権の行使として許容されなくなるものと理解している、こういう答弁がありますから、私が先ほど申し上げたように、この両方、体罰を加えるということと監護及び教育に必要な範囲を超える行為、これがいずれも禁止される規定となっております。

○高橋(千)委員 今の答弁は、先ほど初鹿議員自身も少し歴史をひもといて指摘をされていたように、これまでは懲戒の一部に体罰があったわけです。イコールじゃないですよ。イコールじゃないし、すっぽり入るわけでもありません。だけれども、そういう答弁をずっとしてきたんだと。でも、今回は八百二十条の範囲をはみ出るものは体罰であってそれは禁止する、だからかぶらないんだとおっしゃったんですね。でも、その境目はどこにあるのかということは明確になっていません。
 体罰は何かという定義をどのように決めるのか。学校教育法第十一条を参考とするという答弁もこれまであったと思いますが、どのようにするんでしょうか。

○浜谷政府参考人 お答えいたします。
 体罰に関する規定でございますけれども、御指摘のとおり、既に学校教育法第十一条に体罰を禁止する規定がございます。この学校教育法におきましては、懲戒行為が体罰に当たるかどうかにつきましては個々の事案ごとに判断する必要があるとされているが、殴る、蹴るなどの身体に対する侵害を内容とするもの、正座、直立等の特定の姿勢を長時間にわたって保持させるなどの肉体的に苦痛を与えるものは体罰に該当する、こういうふうにされております。
 今回禁止する体罰につきましても、この学校教育法の運用を参考としながら範囲を定めることを想定いたしております。具体的には、今後、体罰の範囲、体罰禁止に関する考え方等につきまして、国民にわかりやすく説明するためのガイドライン等を作成したいというふうに考えております。

○高橋(千)委員 今、一部例示したと思うんですが、かなり少ないわけですよね、例示してしまうと。それだけかいとみんなが思うし、教室と家庭内、先生と生徒、親と子供では全く意味が違ってくるわけですよね。参考にするとは言っても、それはそう簡単ではないだろうということを言いたいと思うんです。
 それで、まず、きょうは文科省に伺います。学校教育法の第十一条は、「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。」こっちはできる規定ですね、「ただし、体罰を加えることはできない。」とされています。この懲戒と体罰の境目をどこに置いているのか、伺います。

○丸山政府参考人 お答えをいたします。
 委員御指摘のとおり、体罰は学校教育法第十一条で禁止をされておりますが、懲戒と体罰の区別につきましては、平成二十五年三月に文部科学省から発出をした通知においてその考え方を示しております。
 具体的には、「教員等が児童生徒に対して行った懲戒行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要がある。」こと、また、「この際、単に、懲戒行為をした教員等や、懲戒行為を受けた児童生徒・保護者の主観のみにより判断するのではなく、諸条件を客観的に考慮して判断すべきである。」こと、「その懲戒の内容が身体的性質のもの、すなわち、身体に対する侵害を内容とするもの」や「児童生徒に肉体的苦痛を与えるようなものに当たると判断された場合は、体罰に該当する。」こと、という考え方を示しているところであります。

○高橋(千)委員 今読んでいただいたものも含めて、少し資料を見ていただきたいと思うんですが、資料の一枚目。これは、今読んでいただいた通知の後に出たもので、平成二十五年八月九日「体罰根絶に向けた取組の徹底について」、前川喜平さんが出しておりますが。
 「平成二十四年度に発生した体罰の状況について、」この平成二十四年度に発生した体罰というのは、皆さんも御記憶にあると思いますが、大阪の桜宮高校バスケット部のキャプテンが体罰を苦にして自殺をした事件を指していると思います。こうした痛ましい事件があって、実態把握を求めたことや対策を求めたということがありました。また、文科委員会など、あるいは青少年特などでも議論が随分されたということも承知をしております。
 その後を読みますけれども、「実態把握の結果を別添のとおり取りまとめたところですが、全国の国公私立学校における体罰の件数が六千七百件を超え、これまで、体罰の実態把握や報告が不徹底だったのではないかと、重く受け止めています。」六千七百件というのはすごい数ですよね。「体罰は、学校教育法に違反するのみならず、児童生徒の心身に深刻な悪影響を与え、力による解決の志向を助長し、いじめや暴力行為などの土壌を生む恐れがあり、いかなる場合でも決して許されません。」こう書いている。なかなか心のこもった文章だなと思って読んでいたわけであります。
 そこで、今御答弁いただいた二十五年三月十三日の通知がこれであります。
 この中に、右下の方に「懲戒と体罰の区別について」と書いてありますよね。それで、アンダーラインのところをちょっと、もう一度繰り返して申しわけないんですけれども、懲戒行為が体罰に当たるかどうかは、年齢や健康状態、心身の状態云々というのがあって、「単に、懲戒行為をした教員等や、懲戒行為を受けた児童生徒・保護者の主観のみにより判断するのではなく、諸条件を客観的に考慮して判断すべきである。」この意味するところは何かということなんですね。
 子供が体罰を受けて、つらかった、やめてほしかった、そう訴えても、いやいや、それはこの生徒の主観であって、体も大きいんだから大して痛くはなかったはずだ、そういうことがあるという意味になりますよね。

○丸山政府参考人 お答えをいたします。
 委員の方から御指摘のあった点については、学教法第十一条におきましては、文部科学大臣の定めるところについてということで、このものについては学教法の施行規則の第二十六条において規定をされておるわけでございますが、具体には、児童等に懲戒を加えるに当たっては児童等の心身の発達に応ずるなど教育上必要な配慮をしなければならないこと、懲戒のうち退学、停学等については校長が行うこと、退学等については性行不良で改善の見込みがないと認められる者に対して行うことができる等が定められているところでございます。

○高橋(千)委員 今何を答弁されたんでしょうか。私が聞いたのは、先ほど審議官が答弁された「懲戒と体罰の区別について」のことを聞いているんです。
 要するに、体罰を受けた、懲戒行為を受けた生徒の主観では判断しちゃいけないと書いているわけです、これには。だから、自分が苦痛だった、つらかったと訴えても、あなたは体が大きいから大したことないでしょう、客観的に言ってもうそれは体罰じゃないと言われちゃう、そういう趣旨を書いているんじゃないんですかと聞いています。

○丸山政府参考人 失礼いたしました。
 委員御指摘のとおり、この通知の2のところにありますような、「懲戒と体罰の区別について」ということで、懲戒については諸条件を客観的に考慮して判断すべきものであるということでございます。

○高橋(千)委員 だから、客観的といいますけれども、さっきから言っているように、この委員会ではずっと、子供が権利の主体であり、意見表明権を尊重しようという議論をしているわけですよね。
 同じ子供の話なんだけれども、学校が舞台であれば、子供が体罰を受けてつらかった、痛かったと言っても、客観的にそれは違うよと決めつけることがあるんだという意味ですねと聞いています。

○丸山政府参考人 失礼いたしました。
 繰り返しになりますが、当事者からの意見ということだけではなく、関係者の意見をしっかり聴取をしてということで、諸条件を客観的に考慮して判断すべきものであるということでございます。

○高橋(千)委員 そうなんですよ。結局、そういうふうにこの通知はできているんです。
 虐待の場合、これを参考に家庭に置きかえられたらどうなるんですか。心愛ちゃんが痛い、結愛ちゃんが痛いと言っても、親は、俺はしつけだと言っちゃえば認めちゃうということになるんです。それでいいんですかという指摘をしています。
 もう一枚めくってください。今、どういう事例があるかということで、「体罰」、そして(2)は「認められる懲戒」、「正当な行為」。この「正当な行為」は、生徒から暴力を振るわれたりして、いわゆる正当防衛のようなことを言っているわけですけれども。「体罰」は許されないもので、読みません。この「認められる懲戒」のときに、こういうことをみんなも、私自身もですけれども、一度は経験したことがあるなというものが書いてあります。確かに、放課後に教室に残されるとか、授業中立たされるとか、課題を余計やりなさいとか、掃除当番を当番じゃないのにやりなさいとか、そういうことを書いているわけなんです。
 それで、括弧して「ただし肉体的苦痛を伴わないものに限る。」と。これは、立たされて、長時間なんだけれども、肉体的に苦痛ではないからいいんだという趣旨で書いているわけなんですよ。でも、そうすると、長時間でそれはしんどくなりますよねということもあります。それから、誰も立っていないのに自分だけが廊下に立たされている、みんなが何しているのと見ていく、屈辱を受けます。精神的な屈辱を受けます。だけれども対象になりません。認められます。なぜなら、肉体的苦痛ではないというふうに見られるからです。
 これでいいんでしょうか。そういう趣旨ですよね。

○丸山政府参考人 お答えを申し上げます。
 委員御指摘のとおり、そういった趣旨で我々も捉えております。

○高橋(千)委員 では、厚労省に伺います。
 先ほど学校教育法を参考にとおっしゃいました。今言ったような心理的な屈辱や苦痛もそれは認められる懲戒に入るんだということや、本人が痛いと言ってもそれは客観的にはそうじゃないということもあるんだと。こうした学校教育法の例示に従いますか。

○浜谷政府参考人 お答えいたします。
 体罰に関する具体的なガイドラインの内容につきましては、これからしっかり検討ということですので、現段階でどうこうということは具体的に確定しておりませんけれども、学校教育法の運用例も参考にしながら、それを家庭にも置きかえて大丈夫かどうかというような観点を踏まえながら検討してまいりたいと考えております。

○高橋(千)委員 同じことを大臣に聞きます。
 今言ったようなことをちゃんと考慮していただけますか。心理的な苦痛というのは当然ありますよねと。権利委員会からいったら、当然入るわけなんですよ。心理的苦痛を与えても、肉体的じゃないからそれは認められる懲戒ですとか、本人が幾ら主張してもそれを客観的に認めないですと。それは家庭の中へ持ち込んじゃいけませんよね。どうですか。

○根本国務大臣 学校教育法を参考にしながら範囲を定めること、今回禁止する体罰についても、学校教育法を参考としながら定めることを想定しております。
 ただ、具体的には、今後、体罰の範囲や体罰禁止に関する考え方、これは学校の現場と教育の現場とというような要素で、例えば今の学校教育法における体罰の定義が当てはまるかどうかということも含めて、これは専門的な観点あるいはきちんとした専門的な議論も含めながら、体罰の範囲や体罰禁止に関する考え方を決めていきたいと思います。
 やはりこれは国民にわかりやすく説明をする必要がありますから、そのためのガイドラインを作成していきたいと思います。

○高橋(千)委員 慎重にお願いしたいと思います。せっかくここまで積み上げてきて、いろいろ条件はあっても体罰は禁止と、そこまで書いたんだと言っているけれども、今言ったような、学校と同じ扱いですよとなったらそれは救われないよねということが出てきますので、十分慎重に扱っていただきたいと思います。
 それで、今回、附則に「政府は、この法律の施行後二年を目途として、民法第八百二十二条の規定の在り方」、つまり懲戒権のことです、「検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と書きました。
 懲戒権は削除すべしとの声があり、野党案には、国際的動向を勘案して検討するという表現が入っております。これは一刻も早く削除すべしという思いが込められているわけですけれども、大臣の思いを伺いたいと思います。

○根本国務大臣 体罰は、たとえしつけを目的とするものであっても許されないものであります。今回の法案において、体罰禁止を法定化するとともに、民法に定める懲戒権について、施行後二年を目途とした検討規定を設けるということにしております。
 御指摘の懲戒権の見直し、これについては、民法の検討課題でありますので、これは法務省を中心に検討が行われるものであって、法務省において、民法ですから、しっかりと検討をしていただくものと考えております。

○高橋(千)委員 大臣の思いを聞いたわけですが、少し残念な気がいたしますが。
 きょうは、門山政務官にもおいでいただいております。ありがとうございます。
 同じ質問なんですが、民法八百二十二条の懲戒権、今議論した学校教育法と懲戒というのはやはり意味が違いますので、影響しないということをまず確認したいということと、当初は五年の検討規定ということが言われていたんですが、今回、二年になったということで、やはり法務省としても削除に前向きであってほしいなと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○門山大臣政務官 お答えいたします。
 委員が御指摘いただいた二年の見直し規定の趣旨でございますけれども、民法の懲戒権につきましては、家族のあり方にかかわり、国民の間でもさまざまな議論があることから、その規定のあり方を検討するためには、国会における議論等を十分に踏まえながら徹底的な議論を行う必要があると考えております。
 そのため、二年を目途とする検討期間が必要だと考えているわけでございますが、具体的な見直しの方向性については今後検討することになりますが、この検討の際には、高橋委員の御指摘にもありましたように、民法第八百二十二条の規定を削除するということも含め、さまざまな選択肢を視野に入れて検討されることになると認識しているところでございます。
 また、委員の方から、学校教育法の懲戒権との関係についての御質問がございました。
 民法第八百二十二条は、親権を行う者がその子を懲戒することについて定めた規定でございます。これに対しまして、学校教育法十一条は、校長及び教員の児童等に対する懲戒権について定めたものでございます。
 委員も十分御承知だと思うんですけれども、このように両者は異なる場面の規定であることから、仮に民法八百二十二条の懲戒権の規定を削除したとしても、直ちに学校教育法上の懲戒権の規定に影響を与えるものではない、これは委員と同じ認識であるというところでございます。
 この削除については、先ほどのように、二年を目途として慎重に検討させていただきます。

○高橋(千)委員 ありがとうございました。
 現時点で予断を持った答えはできないと思いますが、そういう中で、削除も含めと力強く言ってくださいましたので、意を用いたいというふうに思います。
 そこで、大臣にもう一言伺いたいんですが、深刻な事案が続きますとどうしてもそこにフォーカスした対策ということが議論をされます。
 ですが、例えば千葉県においても、昨年五月に児童虐待死亡事例検証報告書というのが既に出されていて、つまり、別の案件なんですね。だから、同様の教訓、今の野田市のと同じような教訓というのは、これに限らずその前も実はあったということなんですが、既に指摘されていた。
 だから、やはりそのときにきちんとそれができていたらなという思いがあるわけなんですね。そういう認識を共有していただけるでしょうか。

○根本国務大臣 昨年五月の千葉県における児童虐待死亡事例について、御指摘の報告書は昨年五月の児童虐待死亡事例について検証された報告書であります。
 その中で、児童の安全確保、関係機関との連携強化、予防に向けた取組強化などが取りまとめておられます。これは千葉県でもしっかりと受けとめるべきものだったと私も認識しております。
 それにもかかわらず、ことしの一月に千葉県野田市において痛ましい事件が繰り返されてしまったこと、これはまことに残念であり、事態を深刻に受けとめております。
 この国会で、児童虐待の発生予防、早期発見、児童虐待発生時の迅速的確な対応、被虐待児童への自立支援を切れ目なく一連の対策として講じるために、児童相談所の体制強化、関係機関間の連携強化などを行うことによって、児童虐待防止対策の強化を図るための法案を提出しました。
 この法案と、さらに全体の施策、取り組むべき施策、これは、閣議決定でさまざまな施策を打ち出しておりますので、これまで決定した対策のさらなる徹底を図るとともに、こういう法律の見直しによって、虐待防止に向けて全力で取り組んでいきたいと思います。

○高橋(千)委員 時間の節約でここは指摘にとどめます。
 この案件は、平成二十六年、二〇一四年十一月六日、市原市でゼロ歳八カ月の男児が救急搬送された後、死亡した事件であります。ですから、乳児であるということだけが結愛ちゃん、心愛ちゃんと違うんですね。でも、それ以外はほとんど同じです。
 十七歳で子供を産んだ若年の夫婦であり、長期の支援、これは児相だけではなく母子保健センターが長期に支援をしておりました。DVもありました。そして、転居を繰り返しました。最後に一時保護を解除した直後の死亡であった。同じなんですね。
 だから、それをこれだけ専門家の力で検証して、状況が変わるたびに直接目視により確認することとか、個別支援会議では必ず会議録を作成して会議後に各機関に送付することとか、転居を繰り返す事例については、民生委員や児童委員や地域保健推進員とか、協力して転居先を把握して安全確認をするとか、家庭復帰の際には家族全体の生活を見る、こうしたことが丁寧に書かれてあって、どれも当てはまる教訓だと思うんです。
 これは、国も第十四次まで死亡事例の検証委員会をやっていまして、本当に貴重なことを提言されています。それが繰り返されてきたということをやはり本当に重く見て、私は本当はあれこれではないなというふうに思っているんです。要するに、法律とか制度はかなり整っていて、だけれどもそれが、回っていかないというんですか、人が足りなかったりとか、理解が不足していたりとか、そうしたことが今本当に決定的なんだろうということで、もう繰り返したくないということで指摘をさせていただきました。
 それで、最後にどうしてももう一つ紹介をしたかったのがありますので、資料の最後のページを見てください。
 毎日新聞の五月十一日付です。「体罰ダメ知っていたら」という見出しがついています。萩原みらいさん、自身の虐待経験を実名を明かして公表して、虐待対策に生かしてほしいと訴えています。
 この方は、記事の下から四段目を見ていただくとわかるんですが、困難な経験を持つ学生を対象に教育支援グローバル基金が提供する奨学金プログラム、ビヨンドトゥモローへの参加を勧められて、「同世代の学生たちと出会い、自分の生い立ちを初めて人に話すことができた。」とあります。
 ビヨンドトゥモローは、橋本大二郎元高知県知事が主宰する一般財団法人で、私も、子どもの貧困議連のつながりで国会内集会に参加をして、この方に直接お話を聞かせていただきました。本当に貴重な経験をしたなと思うんですが。新谷政務官を始め、加藤、塩崎両元厚労大臣や橋本理事も参加をされていたんですね。
 記事にもあるんですが、彼女たちが述べたことは、ほかの家のことは知らないから、自分の置かれている環境が当たり前だと思って、それが虐待だ、虐待されているんだと気づかなかったということなんですね。大変衝撃を受けました。それは考えてみれば当たり前なことで、隣の家の親子関係はどうなのか、世間一般はどうなのか知らないんだから、自分の家が異常なんだということがわからない。だから、子供は権利の主体、さっき大河原委員がおっしゃっていたこととも通じるんですが、意見表明権の尊重というんだけれども、自分にそういう権利があることを知らない、だめなことなんだということを知らなければ主張もできないということなんですよね。
 毎日お風呂に顔を埋められた、そういう壮絶な虐待体験を語りました。だけれども、このビヨンドトゥモローに出会って変わったということを生き生きと語って、若い人たちの感性で、どうしたらそういう人たちにつながりを持てて、その権利を知らせたり声を拾うことができるか。例えば車を走らせて絵本を読み聞かせしたらどうだとか、そんなアイデアもお話をしてくれたんですね。
 それで、質問は、下から三段目に書いていますが、「親であっても子どもをたたいたらダメだということを、教育の中で知りたかった」と述べています。とても大事なことで、やはりこれを教育の中で、先生方に徹底するというだけじゃなくて、子供にきちっと教えていくということが必要だと思いますが、中村政務官と大臣に、最後、お願いしたいと思います。

○中村大臣政務官 親であってもたたいたらだめだということを教育の中で知りたかった、自分の置かれている環境、これがほかの家と違って、大変な虐待であり、体罰であったということを、なかなか判断ができなかったということなんだろうというふうに思います。
 子供たちを虐待から守るために、学校教育現場で虐待に関して子供たちにどのように教えていくのがよいのかということについては、それぞれの子供の発達段階にもよりますので、そうしたことを勘案しながら、厚生労働省とも相談しつつ、検討してまいりたいと思います。
 本法案には、二年後を目途に児童の意見を述べる機会の確保ということが規定されています。そうした中で、学校現場でのそうしたことについての教育もしっかり取り組んでまいりたいと思います。

○根本国務大臣 平成二十八年の児童福祉法改正において、児童は、適切な養育を受け健やかな成長、発達や自立等を保障される権利を有すること、全ての国民は、児童がその年齢及び発達の程度に応じてその意見が尊重されるよう努めなければならないこと、これを明確化いたしました。
 例えば、児童相談所運営指針において、児童に対して施設入所等の措置を行うに当たっては、児童が有する権利や苦情がある場合の申出先、申出方法などについて、児童の年齢や性格に応じて懇切に説明することとしております。
 また、児童福祉施設等においても、児童の権利が守られることや、あるいは児童が意見表明できることについて、子どもの権利ノートなどを配付して説明しております。
 本法案の附則において、施行後二年を目途として、児童の意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されるための措置として、児童が意見を述べることができる機会の確保や、そうした機会において児童を支援する仕組みの構築などについて検討することとしているところであります。
 子供の権利擁護のための取組、これが適切に進められるように、引き続き必要な検討を進めていきたいと思います。

○高橋(千)委員 また続きをお願いします。
 ありがとうございました。

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