国会質問

質問日:2006年 3月 8日 第164国会 厚生労働委員会

独立行政法人非公務員化法案

日本共産党の高橋千鶴子議員は8日、衆院厚生労働委員会で、職員から国家公務員の身分を奪う「厚生労働省・独立行政法人改革推進法案」の問題点をただしました。

同法案は、厚労省が所管する産業安全研究所と産業医学総合研究所を統合して「労働安全衛生総合研究所」とし、同研究所と国立健康・栄養研究所を「非公務員型」の独立行政法人へ移行する内容です。

産業医学総合研究所は、職業病や労災に関する基礎研究を行い、その成果をじん肺問題などで行政指針や規則改正に反映させるなど、労働者の健康と安全を守る役割を担っています。

高橋氏は「労災について研究する機関は企業からの独立が必須条件だ」とのべ、研究所職員を非公務員化して、中立・公平性が担保できるのかと批判しました。

川崎二郎厚生労働相は「新制度で民間との関係も整理しながら成果を上げてもらい、それをどう生かすか、しっかり指導したい」とのべました。

高橋氏は、国立健康・栄養研究所が、学校給食や栄養指導などで用いられる「栄養所要量」など、国民の健康と栄養について基礎データを提供しており、厚労省の研究企画官自身が「民営化は困難」と指摘しているとのべました。

その上で、企業が様々な思惑で健康食品などを販売するなか、中立・公平の研究所がますます求められていると延のべ、職員の非公務員化で中立・公平性がゆがむのではないかと懸念を表明しました。

(2006年3月9日(木)「しんぶん赤旗」より転載)

 

――― 議事録 ――――

○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。

 最初に、二〇〇一年の四月に発足以来、三つの研究所が特定独立行政法人として公務員型になっていた理由を伺いたいと思います。

○青木政府参考人 この三つの研究所、産業安全研究所、産業医学総合研究所、国立健康・栄養研究所については、平成十三年に国の施設等機関から独立行政法人化に移行するということでありました。そのときには公共性が高い事務事業を万全に遂行するということが必要でありましたので、そのため円滑な移行をするということでございます、そういうことで公務員型の独立行政法人としてスタートしたものでございます。

○高橋委員 国の施設から移行をする、そのために公共性が高いことやほかにはない役割があってかえられないものだ、そういう議論がされた上での特定独立行政法人になったのではなかったかと思います、今のお話で。

 それで、二〇〇四年八月二十四日、独立行政法人評価委員会第十三回調査研究部会の中で、それぞれの三つの研究所について厚生労働省の立場を述べておられます。

 まず、国立健康・栄養研究所についてですが、厚生科学課の研究企画官がどのように述べているかということです。

 一つは、国民健康・栄養調査に係るデータの処理、集計、あるいは健康・栄養政策に係る基本的データの提供という業務がある、このことで栄養所要量は、日本人が健康を保つために必要なエネルギー及び栄養素の標準的な摂取量を示すもので、中略しますが、学校給食や栄養指導の現場はもちろん、バランスのとれた食事の献立づくりの基準として幅広く用いられていることから、国民の健康、栄養に係る指標が失われてしまうことになり、業務の廃止を行うことはできない、他に類似の調査研究を行っている機関はなく、信頼性や公平性において他に主体となり得るものは見当たらない、採算性は見込めないから民営化は困難、このような理由を述べておられました。

 それぞれの理由について、それがどう変わって、言ってみれば困難だという理由が克服されてどうなったのか、このことについて伺います。

○外口政府参考人 国民健康・栄養調査が大変重要な指標であって、そして公的な業務としても今後も重要であるということについての考えは変わっておりません。

 ただ、その業務を行う主体が、公務員でなければどうしてもできないかということについては、さまざまな工夫をすることによって、非公務員化しても必要な調査は継続していけるだろうというように検討が進んだわけでございます。

○高橋委員 厚労省は、ついこの間ですよね、二〇〇四年、平成十六年八月ですから、一年半前にみずからが述べていたことをみずからが否定をしている、そういうことになると思うんですね。今、重要な指標として必要な調査は続けていく、主体が変わっただけだ、そのようにおっしゃいました。しかし、国民健康・栄養調査は国民のプライバシーにかかわる情報を取り扱うから民間ではまずいと言っていたわけですよ。それを民間にする、あるいは外部委託をして効率化を図るという皆さんの言い方だ。それから、採算性は見込めないから民営化は困難と言ってきたはずですね。しかし、それについては、昨年の十一月三十日の指摘事項を踏まえた厚労省の見直し案の中で、競争的研究資金も積極的に獲得する、このように述べているわけですよ。

 そうすると、この四年間で競争的資金、全体の予算が六・八%削減されておりますが、外部資金は〇一年の五十八件、二億九千百万円から、〇四年、八十件、三億三千百五十万というように増加をしています。それが今後一層増加をするということが次期中期目標に書き込まれると、人事評価制度とも相まって、短期で結果を出すそういう研究に傾斜をするのは明らかではないかと思うんですね。

 先ほど大臣は、田名部委員の質問に対して、研究や科学技術等をすべて効率で割り切ることはできないとおっしゃいました。私、本当に大事なことだと思うんです。すぐに成果が出なくても地道にやらなければならない研究というものはある、この立場はいかがですか。

○川崎国務大臣 だから民営化を行わずに独法という新しい組織論の中でやらせていただく。ただし、その独法という国が一つ担保した組織の中で働く人が公務員でなければならないのかという議論をしてまいって、公務員でなくてもできるであろうという判断をして、今回の法改正をお願いいたしております。

○高橋委員 今のお話は、先ほどの答弁とあわせて、どうしても整合性がとれないんですね。必要な調査である、しかしそれを担保するために主体が変わっても構わない、なぜそういうふうになるのか。

 この疑問とあわせて次の質問に行きますけれども、例えば健康増進法に基づく特別用途表示食品の収去試験等は、特別用途表示の許可の取り消しなど公権力の行使を前提とする試験である、このことも繰り返し厚労省自身が述べてきたことであります。企業の情報に深くかかわる、そういう意味からいっても、公平中立な公務員でなければならない、この立場についてなぜ変わることができるのか、もう一度伺います。

    〔委員長退席、谷畑委員長代理着席〕

○外口政府参考人 特別用途表示食品の収去試験等、公権力の行使の前提となる試験につきましては、とりわけ守秘義務、プライバシーにかかわる情報でございます。

 そういったことに関して、もちろん今まではそれは公務員であればそういったことが守秘義務がかかるだろうという考えであったわけでございますけれども、これは、新しい法律の中で守秘義務をきっちり規定するということによっても同じような効果が得られるのではないかということも含めまして、こういった検討を進めてきて、非公務員化という検討に至ったわけでございます。

○高橋委員 守秘義務が法案の中に書き込まれると、同時に罰則規定も出ますね。しかし、罰則規定があって、義務違反があると罰則はある、一方では、それを担保するだけの身分保障はないわけです、義務だけが課される。そういう点で、本当にこれが本来の趣旨からいって正常なものかということが問われると思うんですね。

 昨今、健康食品に対する国民の関心が非常に高まって、また関連企業も増加をしております。昨年は、そうした背景を受けて特定保健用食品制度も見直しをされました。ですから、なおのこと、いろいろな企業がいろいろな思いでこの分野に参入をしてくる、そういう点で、ますます公権力の行使ということが非常に重要になってくるわけですね。

 その点で、単に罰則規定が出されたというだけで本当に彼らに対して対等、中立な立場を持ち続け、そして権力を行使することができるのか、この点、もう一度伺いたいと思います。

○外口政府参考人 国立健康・栄養研究所に求められております中立公正な立場からの公的な業務、議員今御指摘のような健康食品にかかわる正確な情報の提供とか、そういった内容でございますけれども、これについて、私は、大事なのは理事長以下の管理者を含めた中の研究者が、きっちりとしたモラルを持って必要な研究それから必要な業務を行っていくことだと考えております。

 この点、とかく研究の場合ですと、例えば大学等の研究者におきましては、何か新しい研究をする、あるいは企業の研究者であれば、それが企業の業績に資する、そういったことに重点を置いて評価されがちでございますけれども、こういった公的な分野に地道に働いている職員、研究者の人たちを理事長以下がしっかりと評価して処遇していくことが大事ではないかと思いますので、こういったことを評価委員会等も含めて我々の方でもきっちりと見守って、必要な業務が果たせるよう努力していきたいと考えております。

○高橋委員 中の方たちが地道な研究に対して評価をしていただきたい、そうおっしゃった。全くそのとおりだと思うんですね。評価委員会の中でも、大変いいミッションをされているということが評価委員の中から、この国立健康・栄養研究所に関してはされているということを承知しています。

 ただ、私は、今後の中期目標においては、経費の削減ですとか、やはり人事評価の中に研究の成果が当然対象となる、そういう仕組みの中で、地道な研究というのが後に追いやられるのではないか、あるいは、国の政策にかかわる、根幹にかかわる大事な部分が縮小されるのではないか、そういう強い懸念を持っているのであります。ですから、私は、やはり今聞いていても、言っていることと今やろうとしていることは違う、正直そう思います。

 しかし、そうおっしゃるのであれば、そのとおりのことを、最終的には中期目標を現認するのは大臣でございますから、その点でしっかりとした指導をしていただきたいと言っておきたいと思います。

 この私の不安に対して、次の研究所に関しても関連をしますので、次の問題に行きたいと思います。

 産業安全研究所と産業医学総合研究所、これは統合並びに非公務員化であります。やはり同じように、公権力の行使についての問題が大きいと思っております。

 先ほど紹介した評価委員会の、同じ日に、労働基準局の調査官が述べておりますが、最近は原因究明が困難であり、周辺住民を巻き込んだ大規模なものが多いとして、一工場の生産ストップから取引先や関連企業と本当に影響が大きい、そういうことをるる述べた上で、実際に立ち入り、必要であれば試料などの提供を受けるなど、公権力を行使しつつ災害調査を行う必要があることから、産業安全研究所職員は公務員でないとうまくいかない。産業医学総合研究所の研究は、職業性疾病や過労死の防止にかかわるものであるが、当該研究は、今後国が労働衛生政策の中で特に重点を置いて推進していく施策のために必要不可欠な調査研究であり、かつその重点の方向は、企業における個人の健康情報や企業の事業内容に幅広くかつ深く関与するものと説明をしております。

 私は、このことからいってもやはり、ついこの間厚労省は、だからこそ公務員でないといけないと言っていた、それと照らして今の方向はどうなのか、伺いたいと思います。

    〔谷畑委員長代理退席、委員長着席〕

○青木政府参考人 今お触れになりましたように、産業安全研究所、産業医学総合研究所ともども、そういう意味では極めて公共性の高い調査研究を行うものだというふうに思っております。

 しかし、今般、そういう意味で、非公務員化をして特定独立行政法人以外の独立行政法人への移行ということをお願いいたしておりますのは、やはり、弾力的、機動的な官民交流を行うことによって研究の質を高めることが可能だろうということで、そういうメリットも考え、しかし、お触れになりましたような懸念、デメリットはできるだけなくさなければいけないということで、今般、法案の中にも、労働災害の原因の調査をする際には、厚生労働大臣が必要と認めるときに研究所に対して指示をするということで行う、そしてまた、その任に当たる職員には秘密保持義務が課される、刑法その他の罰則の適用については法令により公務に従事するものとみなされるということで規定をいたしまして、そういう措置を講ずることによって、中立性、公正性を確保するということを図ったわけであります。

 そういうことで、労働安全衛生総合研究所ということになりましても、従来から担わされていた災害予防、災害防止のための原因調査等に支障のないようにしようということにいたしているところでございます。

○高橋委員 先ほど私が紹介した部分、公権力の行使にかかわるところは、単にデメリット、そういう表現では整理できないものではないのかと思うんですね。そして、今、答弁がありましたけれども、立ち入り権限の付与だとか守秘義務、そこを書き込んだら、これまでと同様のことが本当にできるのかということがやはり問われていると思うんですね。

 整理のために一つ聞きますが、労働基準局は司法警察権を持っていると思います。単に立入調査というだけではなくて、証拠物件の差し押さえなど、司法処分が可能なはずだと思いますけれども、それを具体的に確認させていただきたいと思います。

○青木政府参考人 労働基準局で勤務をいたして労働基準法等の施行を行っております労働基準監督官の権限といたしまして、捜査あるいは送検等の事務を行うことができるということになっております。

○高橋委員 いわゆる司法警察権ということでよろしいですよね。

 そこで、二〇〇四年の九月六日に独立行政法人評価分科会が行われていますが、そのときに、厚労省の担当者は、基準局を警察に例えれば、産業安全研究所は科捜研のようなものだ、そういう評価をしておりますね。これまでの経過からいっても、司法権の行使に当たって基準局と一体の行動がとられてきた。やはり、それは、現場で基準局がやれることと、研究という立場でそれを補うことと、それが一体だからこそできたものだというふうに説明をされているわけですね。

 それが、今、本当にこれからも司法権の行使に当たって、一体の行動がこれまでと同様にとれるのか。どうでしょうか。

○青木政府参考人 労働基準監督官の捜査権限との関係でございますけれども、これまでも、事故、災害等がございましたら、災害調査ということで、その原因究明、調査結果に基づきまして、その原因の除去のためのいろいろな対策を講ずる、施策に反映するということで、そういう調査を研究所がやっているわけであります。

 それで、犯罪捜査との関係で申し上げれば、それは犯罪捜査のために行っているわけではございませんで、むしろ、鑑定といいますか、そういう関係で、研究所に対しまして専門家の意見を聞くということで対応しているところでございます。その関係は、今般の非公務員化あるいは統合ということによって変わるものではございません。

○高橋委員 変わるものではないということだったのですけれども、そういう点は非常に不安があるということを指摘しておきたいと思うんですね。

 では、具体的な研究の中身についてちょっと伺いたいと思うんですが、先ほど来、労働災害の防止、予防という目的だということがお話をされているわけですけれども、やはり、労災による死亡者数が年間一千六百人を超えて、約五十三万人が被災しているということがございます。重大災害の発生件数の増加、あるいは過労死や精神障害にかかわる労災認定もふえている、そういう背景があるからこそ、労災の予防、防止という観点から、両研究所が重要な役割を持っているのではないかと思います。

 そこで、職業性疾病について、産医研の研究がもとになり、ガイドラインあるいは行政指針、規則改正に至るなど、重要な役割を果たしていると思います。最も古く、かつ、今なお新規の所見者があらわれているじん肺について具体的に伺いたいと思うんですが、このじん肺について産医研がどのような貢献があったのか、伺いたいと思います。

○青木政府参考人 お話ありましたように、産業医学総合研究所におきましては、じん肺対策に関するさまざまな研究にこれまで取り組んできております。例えば、粉じんの量とじん肺との関連性、あるいは肺がんとの関連性、それを定量化する研究、あるいは、溶接作業について、溶接の際の粉じん濃度の評価方法を開発したり、あるいは溶接用排気フードの開発等の研究を行ってきております。

 これらの研究を通じて蓄積された成果については、例えば、平成十二年の防じんマスクの規格の改正の際、あるいは平成十五年のじん肺の合併症として原発性肺がんを追加する規則の改正の際には、産業医学総合研究所の研究員がこういった検討会に参画して、その知見、ノウハウを活用しているところでございます。

○高橋委員 時間がなくなるので、最後に、大臣にお伺いしたいと思うんですね。

 今、いろいろな労働災害がある中で、今一つじん肺について伺いました。防じんマスクの問題だとか、あるいは規則改正の問題だとか、研究所の研究のデータの積み重ねによって、現実のじん肺対策においてさまざまな成果があったということが言えるかと思うんです。

 じん肺法が成立されたのは一九六〇年、今、ILO、WHOは、二〇一五年までに全世界からじん肺を根絶するべきであると提言をしております。しかし、その一方で、長い争議があって、ゼネコンに対する訴訟は全面解決、そういう歴史を経てこれまでの各種対策がなされてきたわけです。しかし、今現在も、厚労省からいただいた資料におきますと、建設工事業における定期監督等の実施状況を見ますと、違反率、これが五割を超えているんですね。建設工事業であると五七・五%、土木であると五〇・二%、いずれもふえているんです、違反率が。ですから、そういう点では、本当に各種規制を生かす方法が求められていると思うんです。

 私が最後に伺いたいのは、先ほど来さまざまなお話をしてきたけれども、やはり、公権力の行使にかかわる研究所であるということでは、企業からの独立、これが必須条件である、そのことが本当に保たれることが何よりも大事である。労災というのは常にこういう企業との関係が問われるわけですから、その点に深くかかわる研究所は必ず独立していなければならないと思うんです。この点について、大臣の見解を伺いたいと思います。

○川崎国務大臣 今まで両研究所がいろいろな成果を上げてきたことは、御指摘のとおり事実でございます。また、新しい制度の中におきまして、この研究所がまさに民間との関係もしっかり整理をしながら提言をしてもらう、研究成果を上げてもらうことは大事だろう。一方で、その上がってきた研究成果というものを私どもがどう生かしていくかということも大事だろうと思っておりますので、そこの二つをしっかり私の方からも指導しながらやってまいりたいと思っております。

○高橋委員 質問に答えていただいてないんですが。企業からの独立に対しての大臣の見解を伺いました。

○川崎国務大臣 基本的に、職員には秘密保持義務が課されている。刑法その他の罰則適用についても、法令により公務に従事するものとみなされる。中立性、公正性が確保されるような仕組みに今回もなっておると考えております。

○高橋委員 必要性について伺ったつもりでしたけれども、なかなか答えにくいのかなと。しかし、その点が最低条件であるという立場で臨んでいただきたいということを指摘して、終わりたいと思います。

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