国会質問

質問日:2006年 4月 26日 第164国会 厚生労働委員会

改悪案に異論続々 ―参考人質疑

 二十六日の衆院厚生労働委員会でおこなわれた医療改悪法案の参考人質疑では、ほとんどの出席者から、政府案への異論が相次ぎました。

 日本医師会常任理事の内田健夫氏は、政府案が医療費抑制を目的としていることについて、「コスト削減による現場の過酷な労働は、医療事故、医療過誤に直結する」と発言。また、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」について、「国民皆保険制度を崩壊させるから、安易に導入すべきではない」とのべました。

 療養病床の大幅削減について、鈴木篤・全日本民医連副会長は「はしごはずしの制度改革だ。高齢者の社会的強制退院を引き起こし、行き場のない高齢者が多数生まれる」と批判しました。内田氏は「医療難民、介護難民が発生する」とのべ、渡辺俊介・日本経済新聞論説委員も「削減した後どうなるのか、在宅医療をどのように進めていくのか、青写真が見えない」と疑問を呈しました。

 日本共産党の高橋千鶴子議員は、改悪案が療養病床削減の「受け皿」の一部を在宅への移行に求めていることについて、「医師不足や医師、看護師の深刻な過重労働のもとで、現実に対応が可能なのか」と質問しました。

 内田氏は「在宅医療の基盤整備がまだ十分でない」と発言。鈴木氏は「介護と医療が一体化して、一人ひとりの患者に応じたサービスを保障できることが必要だ」とのべました。

 高橋氏が、「混合診療」について意見を聞いたのにたいし、内田氏は「反対だ。お金のあるなしで、医療の内容に格差が生じる」と答えました。

(2006年4月27日(木)「しんぶん赤旗」より転載)

 

――― 議事録 ――――

○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。

 本日は、大変お忙しい中、六人の参考人の皆さん、本委員会に御出席いただき、また貴重な御意見を拝聴することができました。本当にありがとうございます。

 きょうは最初に、療養病床の問題と絡んで、在宅医療のことでお伺いをしたいと思います。

 療養病床の削減、廃止問題が今回大きな焦点となり、行き場のないお年寄りが出るのではないかというのが強く危惧されております。政府は、六年間で削減される二十三万床の受け皿について、一定期間老健施設の基準を緩和する経過措置を設けることなどを踏まえ、老健施設に十五万から十七万床程度移行し、その他についてはケアハウス等の居住系サービスやあるいは在宅への移行を想定していると答えました。

 施設の受け皿が不十分だということはこの間も指摘をしてきたところでありますが、では、在宅ではどうでしょうか。本法案においては、地域における患者の在宅療養の提供に主たる責任を有する在宅療養支援診療所という新たな規定を設け、二十四時間往診が可能な体制の確立や、死亡日前十四日以内に二回以上往診または訪問看護を行った患者が在宅で死亡した場合は一万点の診療報酬、ターミナル加算というそうでありますが、それ以外は千二百点ですから、莫大な差をつけて、退院の誘導や在宅、いわゆる病院以外の施設でみとりをするというふうに誘導するシステムにしようとしております。

 しかし、この間、医師不足や深刻な医師、看護師の過重労働が指摘されておきながら、さらに二十四時間の体制、今のままでこれをやるということはいかがなものか、あるいは現実に対応が可能なのかということが危惧されるわけでありますけれども、この点について、まず内田先生に御意見を伺いたいと思います。

○内田参考人 私の意見陳述の中でも申し述べましたけれども、療養病床の廃止等を伴う在宅への移行という、政策的な誘導も入っていると思いますが、この問題は非常に大きい問題をはらんでおります。

 一つは、やはり在宅医療の基盤整備がまだまだ十分ではないということが言えます。全国的にも、在宅医療は大分取り組みが進んではおりますけれども、まだまだこれだけのものを受け入れるだけの受け皿は、現在のところはないのではないかなというふうに思います。

 それからもう一つは、現在、介護施設等での医療部分が全く認められておりませんし、それから、今後、居宅への誘導、例えば有料老人ホームとかケアハウスへ移って、受け皿がそちらの方に移った場合、都会では在宅医療が非常に難しい社会的な環境もありますので、こういうところでの受け皿というのを考えたときに、そこで適切な医療が提供できる体制がまだまだ不十分ではないかなと。それから、診療報酬体系の中でも、そこへの対応というのが十分に検討されていないというところがありますので、今後の非常に大きな課題ではないかと思います。

 それから、在宅療養支援診療所の件ですけれども、非常に高い点数設定がされている、これに誘導しようということはわかるんですが、実は、高い点数設定に伴って高い患者負担というのも生じてしまいますので、実際に在宅医療を担当している医師としては、これを患者さんに請求するということがなかなか難しい点がございますので、この辺も検討していかなくてはいけないかなと思っております。

○高橋委員 ありがとうございます。

 基盤整備という点とまた患者負担という点で貴重な御指摘をいただいたと思います。

 同じ質問について、やはり現場で在宅医療を行っている鈴木先生に伺いたいと思います。

○鈴木参考人 お答えさせていただきます。

 現在、先ほども申しましたみたいに、基盤整備といいますか、その基本は、医師と看護体制の問題があります。訪問看護がきちっと二十四時間受け入れられる、あるいはそういうところへ出動するためには、夜の夜中に一人の看護師さんが出かけるわけですね、そういうリスクもあるわけです。ですから、私どもは、二人で、ヘルパーさんと一緒に回っているわけですけれども、そういうものに対する介護報酬、出ておりません。そういう意味で、二十四時間きちっと対応できる診療報酬また介護報酬を確立することがまず第一だと思います。

 それから、先ほど、今回のあれにも切れ目のないということが言われておりますけれども、先ほどの療養病床の削減は切れ目ができてくる可能性があります。

 一つは、先ほど内田先生の御指摘がありましたように、医療と介護が、老健施設におきましては医療行為がマルメになっております。できないというわけではないんですけれども、マルメ。そして、そのために施設の支出がふえちゃいます。基本的に、制度として、やはり患者様一人一人に、医療行為には医療保険、介護サービスには介護保険がどの場におきましてもきちっと出るというシステムが必要なんじゃないかというふうに私は思っております。今、老健施設、そういうところに入ることによって、ここがだめ、ここがだめ、そういうものがありますけれども、ですから、介護と医療が一体化して、そして一人一人の患者様の必要に応じた供給保障ができるということが非常に大きなものだと思います。

 そういう意味では、そのための基盤整備としまして、今回、療養病床が非常に厳しい状況になったということは、実は、私が、一九九八年ぐらいですか、自分たちの約千人を超える在宅患者さんの調査をしまして、急性増悪した場合にどこに入るかということをまとめました。そうしますと、いろいろな都内の在宅患者さん千人ほどが、いざ熱が出たりちょっと調子が悪くなったときに運ばれる先は、その方が、例えば大学病院であっても、あるいは聖路加病院とかそういった有名な病院に入っていましたのでも、結局は近くの民間病院に七七%収容されておりました。

 そういう意味では、やはり地域の医療機関がきちっと救急を受ける、そしてまた、それに対しての、そういう小病院、地域の病院がきちっと経営的にやっていけるということを確立することが私は非常に重要なんじゃないかと思います。

 都市部におきましてもそうでありますから、まして地方におきまして、いろいろな医療の崩壊というものが進められております。北海道の方におきましても、根室の方ですか、そこには療養型病床がなくなっちゃったとか、いろいろなそういう事態が地方において起こっております。こういう状態が続きますと、在宅医療のバックアップになるところがなくなってくるということになると思いますので、これら全体が一体としたものであるというふうに考えております。

 そういう意味では、今回の医療制度で療養病床が機械的に削られるということに関しましては、近くの、それこそ先ほどありましたみたいに、自治体ごとの提供体制の整備、自治体ごとに配備できるような、こういう整備が必要になるんじゃないかというふうに思っております。

 基本的にはやはり在宅医療を支えるのはマンパワーでございます。私も実は二週間前、先ほどの二十四時間、ターミナル加算、私どものかかわっている医療機関はああいう診療所ができる前からずっと医師当直体制をやっておりましたので、そのまま在宅療養支援診療所になりました。そして、最近も私は在宅で、私、土日は全部ポケットベルでいつでも呼べる態勢をずっと続けております。

 そういうことができて初めてできるわけでありまして、そこの裏には、医師や看護師さんの非常に過酷な、私はまた経営的な責任があるからやっているわけですけれども、それが勤務医も含めまして全部やりますと、大変厳しいという状況があるということを御理解いただきたいというふうに思います。

 以上でございます。

○高橋委員 ありがとうございます。

 やはりマンパワーの面で本当に充実した体制がなければ不可能であるということや、あるいは逆に、バックアップする病院等が確立をしていて体制がとれているということがやはり課題ではないのかということも改めて考えさせられました。

 そこで、もう一度鈴木先生に伺いたいんですけれども、やはり先生は身近でさまざまな患者さん、あるいは患者さんを支える家族の苦労も見ておられると思うんです。家族が在宅で病人を抱えるというのはどういうことなのか。実際には老老介護とか、きのうもテレビでちょうどやっておりましたけれども、本当に深刻な実態があるかと思うんです。限られた時間ですが、少し紹介をしていただきたいと思います。

○鈴木参考人 お答えさせていただきます。

 事例は数限りなくいろいろあります。

 介護保険もこの前変わりまして、いろいろな問題、この前、ある医師会で、私の友人が介護保険調査会に出まして、九十五歳のお年寄りの男性が一人でかくしゃくとして住んでおられるけれども、特別認知症もないもので要支援一だった。これにヘルパーさんが一人、週一回入っていました。しかし、今度の保険制度で切られちゃった。そうすると、週一回家をきれいにしていた部分がなくなってしまった、こういうようなことも起きております。

 そういう意味では、介護保険の問題とそれから医療保険の両方が本当に整備されていないと、実際の介護の現場というのは大変厳しいものでありまして、私の副所長の女性医師の御両親の例ですが、二人だけで住んでおりまして、片方が隣で亡くなっているのに連絡もできなかったというような事態が自分の身内にもありましたけれども、そういうようなことが各家庭には起こり得ます。気づかないうちにだれか亡くなったとか、そういうことがないようにするためには、やはりいつも二十四時間チェックできるような、あるいは定期的にでもチェックできるような、そういう制度が必要でありまして、この間の介護保険で大分その辺が削られたということに大変危機感を感じております。

 お一人の方を二十四時間の中で全体でケアしようという試みも私どもは随分しました。しかし、お一人をずっとケアしていくことは本当に何回も何回も行かなくてはいけないということもありますし、そういう意味では、適時、その人なりの生活を保障できる体制も必要であると同時に、ちょっと急変した場合にはすぐに病院に受け入れられる、そういう連携が非常に重要なのではないかというふうに思っております。

 具体的な事例はいろいろありますけれども、一応そんなような感じがいたします。

 以上でございます。

○高橋委員 ありがとうございました。

 本当にたくさん言いたいことがあるんだと思いますけれども、本当に深刻な状況が生まれている。そこを踏まえて私たちも検討していかなければならないというふうに受けとめたいと思います。

 次に、川渕先生にぜひ伺いたいと思うんですが、先生が下さった本、読ませていただきました。ありがとうございます。

 それで、きょうは、実はそのことではなくて、先生が昨年「病院経営」に「医療経済の読み方 混合診療「実質的解禁」は、病医院経営に何をもたらすか」という連載をされまして、非常に多方面に、海外の医療の実態や調査も踏まえた上で、先生やはり医療経済という分野から書かれていますので、せっかくの機会ですので御意見をいただきたいと思います。

 その中で大変印象深い表現を先生されておりまして、「その医療行為が医学的に根拠があるものであれば、混合診療、もしくは保険診療の対象とする」「この「規制緩和」こそがまさに長年の医療界のパンドラの箱が開いた瞬間」、こういう表現をされております。私は非常にこの表現がなかなかのものだなと思っておりますので、ちょっとそこら辺の真意も含めて、混合診療がこの間、これ以上進んでいくことによって何が起きるだろうか。お金のある人しかやはり高度な医療、先進医療は受けられないのではないかとか、あるいは、患者が選んだ医療、口実はそうなるわけですけれども、結果として、高度に限らず、保険で受けられない医療が拡大するのではないか、こうした心配をしているわけですが、率直に伺いたいと思います。

○川渕参考人 非常に難しい質問をありがとうございます。

 いわゆる混合診療と言われておりまして、今の医療保険体系では、いわゆる保険給付と保険外負担の併用というのは一切ない、認められないはずなんですね。なのに、例えば差額室料等、こういうのはございますね。あるいは、皆様方が歯科医院に行かれますと、ここから自費にしますか保険にしますかという局面がございますね。そういうことを実は私なりにまとめて、そして日本医師会のシンクタンクから首になっちゃったんですけれども。

 私がなぜ混合診療の研究をやったかといいますと、だれも研究していないんですね、その問題について。介護保険の話を先ほどしましたけれども、介護保険は、混合介護は在宅ケアだけはオーケーなんです。ですから、先ほど御案内ありましたように、例えば私の義理の母は痴呆ですけれども、認知症ですから、ホームヘルパーに来てもらいますと、要介護二でありますので一定の介護給付金しかもらえない。そうしますと、さらにとなりますと、私は親孝行ですから、私が負担するとなるわけですね。これがいいかどうかという話がございます。

 ただ、一方で、何が今医療保険で起こっているかといいますと、結局、一つでも保険外負担を入れますと全部自費になるんですね。そんなふうに医療現場はやっているかと。ドクターの中には心のある方がいまして、わかった、あなた、これだけは保険外にして、あとはみんな保険給付しますからと。ただ、これは違法なんですね。そんなことが起こっているわけです。逆に言いますと、オール・オア・ナッシングですから、一つでも自費にしますと全部これは保険外だと。そうすると、逆に、今先生おっしゃったような、お金のない人の方が、私は医療が受けられないのかということが起こっています。

 現に、なぜ混合診療に穴があいたかといいますと、これはきょうおいでかもしれませんけれども、患者団体の中に、アメリカのFDAを通っていて日本ではなかなか承認されない、例えば百四十四のうちの六十項目ぐらいの薬はない。それをお医者さんが自己責任で輸入して処方している。全部自費ですよ。これはいかがなものかということで、私はネクストベストということで考えたわけであります。

 本来ならば、全部保険適用すればいい、私もそう思います。現に、今回の高度先進医療でも、百九項目の中で八項目は保険適用になりました。特に臓器移植ですね。私が例えば臓器移植の患者あるいはその家族だったら、ぜひ保険に入れてほしいと。

 ただ、問題は、これが医療費に一体幾ら影響を及ぼすか、そこまで考えて議論されたんですかというところが私は一番抜けているのではないかと思って、ネクストベストでございますけれども一つの方向ではないかということで、ちょっと先走りましたが、そう書きました。

 以上であります。

○高橋委員 同じく、内田先生に混合診療の問題についてぜひ伺いたいと思います。

○内田参考人 混合診療の問題は非常に大きな問題であります。私は、基本的にはこれは反対であります。要するに、医療の内容に格差を生じる、お金の多寡によって受ける医療の内容が差別されるということでございます。

 それに対する対応として、厚労省の方でもいろいろ考えてございまして、先ほどの新薬の承認に関しましても保険診療との併用を一部認めるというような方針も出しておりますし、先進医療につきましても同じような取り扱いが、従前の特定療養費という形から選定療養それから評価療養ですか、今後保険診療に取り込んでいくのを前提とした、評価が確定するまでの移行期間として評価療養というのを取り上げていますから、そういう点での取り組みは徐々に進んできているのではないかと思いますけれども、あくまでも、やはり自費診療と保険診療の混在というのは認めるべきではないという考えでございます。

○高橋委員 ありがとうございました。

 お金のない人が医療を受けられないと先ほど川渕先生おっしゃいましたけれども、やはり内田先生も、基本的に格差が生じるのではないかと、そういう指摘をしっかり踏まえて十分な検討が必要なのではないかと思っております。

 最後に一言、鈴木先生に、もう既に医療の現場でかなりの格差が現実に起きているわけですよね。これ以上の負担増が患者に何をもたらすのかということで一言伺いたいと思います。

○鈴木参考人 このたび介護報酬問題で食費、居住費が自己負担になりまして、全国保険医団体連合会が全国の老健施設その他特養などに行って調べますと、約五百人ぐらいが食費、施設費の負担増によって退所せざるを得なかったというような実態が出てきております。各医療現場におきましては、先ほどもちらっと触れましたけれども、やはり国民健康保険が払えない方がふえてきているということで、資格証明書とかそういうものを持っておられる方がちらちらと出てきております。また、そういう方を私どもが意識的に追求しないとわからないということもあります。

 そういう現実と、それから、私どもは差額ベッドはとっておりませんけれども、医療機関の中で、タクシー労働者の方なんかが私の患者は非常に多いんですが、いろいろな検査とかそういうものを勧めたときに、医療費のことから、時期をずらしてくれとかそういうことを言う方が前よりも多くなってきているように感じております。これは社会構造の格差が広がっているということのあらわれかと思いますけれども、そういう意味で、所得の格差が命の格差にならないように、健康格差にならないように、最近「健康格差社会」という本が出ましたけれども、そういうような実態が明らかになってきております。

 そういう意味では、今度の、医療制度「改革」ということでありますので、いい方向に向かう議論になってもらいたいと思うんですけれども、現時点では、先ほど私が申したみたいに、格差が広がる方向に行くような危険性を感じております。

 そういう意味で、先ほどの民主党の議員さんも言ったみたいに、ぜひ十分な審議、そしてまた問題が十分議論され尽くしていないような、時間的な余裕もありませんし、この間の厚労省の療養病床その他のことの突然の変更も含めまして、十分各医療団体それから患者の声を聞いた医療改革をやってほしいというふうに心から念ずる次第でございます。

 以上でございます。

○高橋委員 ありがとうございました。

 時間の関係ですべての参考人の皆さんにお伺いすることができなくて、申しわけありませんでした。本当にありがとうございました。

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