国会質問

質問日:2006年 6月 13日 第164国会 厚生労働委員会

男女雇用機会均等法等改定案――参考人質疑

 衆院厚生労働委員会は13日、男女雇用機会均等法(均等法)改定法案についての参考人質疑を行いました。
 審議の焦点となっている法案が間接差別を限定して列挙していることについて、「厚労省が定めた基準以外は行政権限を発動しないとなれば、女性労働者の(男女格差是正の)成果を否定するものである」(中野麻美弁護士)、「間接差別の定義は幅広いもので、限定されるべきものではない」(龍井葉二連合総合人権・男女平等局長)などと批判が続きました。
 伊東弘子出版労連女性会議議長(日本共産党推薦)は、出版職場に働く女性のアンケート結果に基づき、仕事と家庭の調和やポジティブアクション(積極的格差是正措置)の義務化の必要性を強調。「間接差別の限定列挙では、現在の職場の差別はなくならない」と述べました。
 日本共産党の高橋千鶴子議員は「間接差別を三つに限定した根拠は、使用者側意見がベースだ」と指摘。川本裕康日本経団連労政第一本部長は「もともと間接差別を改定法案に盛り込むことには反対だった」と答えました。

(2006年6月14日(水)「しんぶん赤旗」より転載)

 

――― 議事録 ――――

○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。

 きょうは、六人の参考人の皆さん、大変お忙しい中、本委員会に御出席いただきまして、貴重な御意見を伺うことができましたことに心から感謝を申し上げたいと思います。

 そもそも、衆議院の本委員会では政府への質疑をまだ行っていない中での、参考人の質疑を先にやるという、大変イレギュラーな経過をたどっておりまして、そのこと自体非常に残念である、先ほど来お話がされているように、本当に十分な審議が求められているんだろうということを改めて感想として持ちました。せっかくの機会をいただいて、皆さんの貴重な意見が本当に今後の審議に十分反映されるということを、ぜひ、本委員会の皆さんにも呼びかけたいなと思っております。

 そこで、まず最初に、川本参考人にお伺いをしたいと思います。

 間接差別の概念が今回初めて導入されましたけれども、省令による三つの具体例に絞り込まれた、このことに対して、関係団体からも多くの意見が上がり、参議院でもこの問題が大きな争点になったかと思っております。

 そこで、使用者側は、一般的にはまだ浸透しておらず、性中立的なものであればどのような要件でも俎上に上り得る、対象が無制限であること、そうしたことから強く反対したという意見を述べられたかと思います。

 参議院での局長答弁も、コンセンサスが得られたもの、それがこの三つであったという答弁がありますけれども、まさに、このことと先ほどの御意見を伺いますと、コンセンサスという名でありながらも、使用者側の意見が今回の法案のベースとなったというふうに言わざるを得ないのではないかと思っております。

 そこで、では、三つの要件、コンセンサスが得られた三つの要件に限定することによって、どれほどの救済が実際にされるのであろうか、実効性があるのであろうかということに対しても、非常に疑問を持つものがございます。

 例えば、コース別雇用管理区分においての全国転勤要件の問題、これについて、参議院で局長は、女性が事実上満たしにくい全国転勤を要件としている企業がかなりに上り、かつ要件としていてもその必要性を十分検討されていないまま導入しておられるという企業が四割にも上っているということを示した上で、このことが禁止されることによって、従来指摘されてまいりましたコース別雇用管理についての運用の是正が進むものと考えております、このように答弁をされております。

 ここを受けとめますと、この間のいわゆる間接差別というものの非常に大きな部分がこの全国転勤要件であり、大部分が解決されるんだというようなニュアンスに受け取れるわけであります。

 しかし、先ほどの川本参考人の御意見を言いますと、具体的に言うと、支店や支社がなかったり、またはその計画等がないにもかかわらず、総合職の採用基準に全国転勤要件を掲げることは合理的な基準とは考えられないということであって、その部分だけが合理的ではない、ですから、コース別雇用管理制度や全国転勤要件そのものが問題とされるわけではないということを明確にしたと述べておられます。

 そうなりますと、実際には非常に狭まって、例えば支店がないところが転勤を要件とする必要がないのは当たり前ではないかというふうに思うわけで、合理的な理由がなくという一文が設けられたがために、実際にここで救済されるものを非常に絞り込んだことになりはしないかと思いますが、その点を伺います。

○川本参考人 間接差別の部分につきまして、何か使用者側の考えがベースとなったのではないかということ、あるいは、コース別全国転勤のところが非常に狭い範囲になったのではないか、このような御質問かと思います。

 まず、使用者側の考えがベースになったという御意見でございますが、審議会においてそういうことではございません。私ども当初、この間接差別概念そのもの、非常に一般概念化していない、あるいは、審議会でもいろいろ議論いたしました、例えば、退職金だってそういう概念に入るのかなとか、年功賃金というのは一体何なんだろうかとか、あらゆる議論をいたしまして、やはりまだ非常にわかりにくいということでございました。したがいまして、私どもずっと反対をし続けたわけでございます。

 ただ、そういう中で、結局、予見可能性、ここをしっかりすることによって対応ができるのではないかというお話が出てまいりまして、公益委員の方から、それでは限定列挙という形ではどうだろうか、これによって予見可能性が高まるだろう、こういう話になったわけでございます。そして、具体的に、話し合いの中でこの三つという形に収束されていったというふうに考えております。

 したがいまして、私どものベースと言われますとちょっとあれになりまして、私どももともと、まだ導入につきましては時期尚早と思っているんだということは申し上げておきたいと思います。ただし、審議会におきましては、そこを収束させていきまして、今回の中身でまとめたんだということであり、その中で、今回のこういう法案につながっているということは申し上げておきたいなと思います。

 それから、コース別の話でございます。

 これは、例えば雇用管理区分の話というのもございます。その中の一番典型的な例がこのコース別管理でございますけれども、そもそもコース別管理というのは、企業におきましては、一時点の仕事だけを見ているんじゃなくて、長期的な視点から、どういう職種あるいはどういう仕事を今後していくのか、あるいは、どういう資格対応があるのか等々の中で、区分しながら、育成もあるいは処遇等の仕組みもつくっていっているわけでございます。

 したがいまして、このコース別雇用管理そのものというのは、やはり企業の経営上非常に必要と思っております。また、あわせまして、実はこれは、別に男女別の雇用管理というものではございません。コースのそれぞれに、当然、男女にも門戸は開かれているんだという考え方を私どもはとってございます。

 ただ、そのような中で、今回、このコース別管理をとっている中で、採用に当たって全国転勤要件をかけることについて間接差別概念に入れるかどうかという話がありましたので、これについては、先ほど言った、支店がない場合とか、今後も計画がないのにそもそも全国転勤要件をかけている、そうすると、私は転勤できませんと言っている人がそこで排除されてしまうということになりますので、それはおかしいでしょうと。したがって間接差別の概念に今回入れてもいいではないか、こういう結論に達したということでございます。

 以上でございます。

○高橋委員 ベースになったのではないかというのに対して、そうではなくて、もともと反対だったというふうな御指摘でございましたので、そうなってくると、私がベースと言った意味はちょっとそういう意味ではなかったのですけれども、初めから使用者側がいいというものしか取り入れないということは、初めから、これからのいわゆる労働者にとっては絶対にもうこれしかだめよということになってしまうから、そういう意味でベースとなったということを指摘させていただいたわけですけれども、今のお話を聞くと、ますますそういうことかなと思ってしまいます。

 しかし、最初にお話しされたように、非常に広い概念であるということは当然認識をされた上で、今コンセンサスが得られるものということでありますから、やはり使用者側として、特に経団連としては、今後、ポジティブアクションについて、今回も努力義務にとどまっているわけですけれども、これを積極的にリーダーシップを果たしていく、企業の責任を果たしていくという点で、どんな役割を果たしていくのかということを一言だけ伺いたいと思います。

○川本参考人 今、ポジティブアクションについての御質問であったかと思います。その中で、私どもとしてどういう役割を果たしていくかということだったかと思います。

 実は、私ども、経団連内部にはいろいろな委員会あるいは会合がございます。今日までも、実は、こういう女性の活用をより進めているところとかというのは、その事例を聴取したりしてきてございます。そして、その集大成として、今後こういうものに取り組んでいく必要性があるというのは、毎年十二月に経営労働政策委員会報告というのを発表してございますが、その中にも記させていただいているところでございます。また、今後も、そういう事例等、いいものがあれば、それは私どもの会員企業にPRをしていきたいなとは思っております。

 また、あわせまして、これは行政へのお願いでございますが、今後、このポジティブアクション、先進的な事例というのがありましたら、よりそのPR、周知に行政としても努めていただきたいな、こう思っているわけでございます。

 以上でございます。

○高橋委員 ありがとうございました。

 次に、酒井参考人に伺いたいと思います。

 大手総合スーパーの新たな基準による人事制度、これが間接差別そのものではないかという具体例は非常に説得力があったと思われます。

 そこで、仕事と生活の調和について、法の目的に据えるべきだという意見が多いにもかかわらず、雇用の場における性差別の禁止と、仕事と生活の調和は切り口が違うからということで排除をされてきました。しかし、改めて酒井さんたちは、これは切り離せないという立場から、この問題が非常に大事だというふうに主張されてきたと思いますが、一言御意見を伺いたいと思います。

○酒井参考人 パート労働というのは、日本だけではなくてアメリカでもヨーロッパでもいろいろな国に広がっているわけですけれども、特に日本におけるパート労働というのは、そもそもの成り立ちが主婦パートというところから始まってきましたから、そういう意味では、初めからパート労働というのは性別役割分業の結果としてあらわれたものであると思っています。

 そして、確かに近年、男性パートもふえてはきましたけれども、例えば、年齢別に見てみますとそれははっきりしていまして、女性のパートというのは、やはり二十代から三十代、四十代、五十代ということで、家族的責任を持つ人たちがパートになっているということが多いんですね。それに比べて、年齢別で見ると、男性のパートというのは、実は学生アルバイトと、それからもう一つ、非常にここ二、三年で顕著になっているのは、六十歳以上の、いわゆる高齢者雇用安定法によって、正社員を退職した後、年金受給までにパートという形で働くという男性が非常にふえています。

 そういう意味では、同じパートといっても女性と男性では全く違う。これを同じに扱うということはできないと思うんですね。やはり女性パート、いわゆる主婦パートとしてこれまで多数を占めてきた人たちの中に、女性労働者が持っているあらゆる矛盾が含まれていると思っています。

 そういう意味では、パート労働を改善し、本当は男性の働き方ではなくて、パートで働きながらワークライフバランスを実践しているこの働き方の方が、実はとても人間にとっても優しいし、それから社会にとっても優しい働き方だということを、まず均等法の中にも、それからパート法の中にも、基本として据えるべきではないかと思います。

 そういう意味で、このワークライフバランスの考え方を、パートでも正社員でも、いろいろな働き方を自分で選択して選べる働き方なんだということから、この法律の基本に据えるべきではないかと思います。

○高橋委員 ありがとうございました。

 次に、伊東参考人に伺いたいと思います。

 出版の現場で働く女性たちの具体的な実態が示されたと思います。

 そこで、今回のアンケートは正規労働者がほとんどであったと思いますけれども、非正規労働者も現場にはかなりいるのではないかと思います。現状がどうなっており、どういう取り組みをされているのか、具体的に伺いたいと思います。

○伊東参考人 非正規労働者の数は、もう把握し切れないほどになっております。やはり出版労連としては、均等待遇をキーワードにして春闘では取り組んでまいりました。例えば、東京都の産業別最賃の改正に全力で取り組んだりとか、企業内賃金制度の時給千百円以上を労使協定化するとか、非正規労働者の単価は労連基準の時間額千百円以上、日額八千円以上、月額十六万円以上とするとか、フリーランサーの料金調査の取り組みや引き上げについて労使交渉で協議するとか、そのようなことになっております。

 それから、均等待遇のチェックリストなどもつくりまして、男女双方に対する均等待遇の考え方、それから非正規労働者に対する均等待遇の考え方、派遣労働者に関するものは派遣法がきちんと守られているかどうかのチェックリストなどを行って意識を広めていきましたが、残念ながら、まだそれがはっきり浸透していないような状況があります。

 ただ、出版産業では、派遣労働者の皆さんとか、それからフリーランスの皆さんとか、そういう方たちの労働力をいただかないととても成り立たないような構造になっておりますので、ぜひとも均等待遇は実現していきたいというふうに考えております。

○高橋委員 ありがとうございます。

 次に、中野参考人に伺いたいと思うのですが、均等法の実効ある担保措置ということで、私たちは、救済措置の強化、職場に苦情処理委員会の設置を義務づけることや労働局均等室などの権限強化が必要ではないかと考えております。参議院でも、行政指導の範囲が司法で争える範囲より狭いのはおかしいのではないかという議論などもあったと思います。また、随時見直していくという点でも、行政がむしろ裁量権を持ち、これを重ねていって見直しにとなっていくのが本来合理的なプロセスではないかと思っております。

 現行法の、今回の提案されている改正案の中で、この実効ある担保措置というのがとれるのかどうか、見解を伺いたいと思います。

○中野参考人 現行法といいますか、改正法は、救済措置については、基本的には旧来のシステムを承継するということになってきております。私どもは、効果的に差別を解消していくためには、差別の認定手法をきちんと確立をするということ、そして、これにかかわる専門的な委員会を設置するということが必要だと思っております。現行の制度はそういった意味で非常に不十分なものであるというふうに言わざるを得ないと思います。

 司法救済には時間がかかるということが言われておりますけれども、行政救済につきましても、認定手法を確立した上で、専門家による迅速な差別の認定というものがかち取れるようなシステムというのをぜひ将来の課題にしていく必要があると思います。

 それから、差別と認定されたときに、これは今回の間接差別に関する是正措置についても問題になるところでありますけれども、差別であると認定されたときに、将来に向かってその格差をどのようにして是正していくのかということが、細かく議論をし、そして実践に移されていかなければならないと思います。

 例えば、全国、転居を伴う転勤が可能であるのかどうかという仕分けの基準というのは、正社員の中でも総合職、一般職、そして正社員とパート労働者を区分する基準にもなってきております。これが、性差別である、使用者側が性以外の合理的な根拠に基づくものだということを立証し切れなかったという場合に、それは性差別的な基準になるわけでありますけれども、それを取り除いた結果、賃金やそれから配置、昇進、教育訓練などの男女格差というものを具体的に是正して、そして、将来にわたってそのような格差をもたらさないというような実効あるシステムになるのかどうかということであります。その点は参議院の中でも議論がまだ十分に交わされてきていないところでありまして、ぜひ衆議院のこの段階において、どうなるのかということについて確認をしていただきたいところだと思います。

○高橋委員 ありがとうございました。

 今の、御指摘があった、専門家による救済を迅速にということをぜひ実効あるものにしていきたいと思いますし、不十分だと言われていた部分の議論をぜひ衆議院の中で深めていきたいと思っております。

 最後に、伊東参考人にぜひ。

 出版労連の中では、今、大手教科書会社である一橋出版・マイスタッフの争議を係争中と聞いております。その経緯を簡単に御紹介していただいた上で、何が課題かお聞かせいただきたいと思います。

○伊東参考人 先ほどから格差の問題であるとか均等待遇の問題とかが話されていましたけれども、そのような非正規労働者の背景は省きますが、一橋出版・マイスタッフ争議というのが出版労連内で起きております。

 この争議は、杉並区にある教科書会社の一橋出版が、グループ企業である派遣会社マイスタッフからの派遣の形をとることで、あたかも合法的に教科書編集者を雇いどめにした事件です。

 出版労連、情報関連ユニオンでは、単産の枠を超えて支援共闘会議などを結成して、支える会も全国規模で拡大して、非正規労働者の権利を確立するために今闘いを強めているところであります。六月二十九日、今月、東京高裁で判決があるんですけれども、何かこれだけではわからないと思いますので、ちょっと長くなって申しわけないんですが、ざっと説明させていただきます。

 まず、一橋出版というのは派遣法違反の事例がかなりありまして、一橋出版とマイスタッフはオーナーが同一人物です。また、複数の人間が両社の役員を兼任するというふうな実態があります。そして、今回裁判になっているK氏の採用の際には、一橋出版の社長以下、役員による事前面接が行われて、労働条件は一橋出版が実質的に決定、本来派遣元が行うべき労務管理を一橋出版が行うということなど、グループ企業が結託して、労働者派遣法にすら違反して、人件費が安く、しかも使い捨ての可能な派遣の形で正社員同様の仕事をさせて、雇いどめにした事件です。

 彼女は教科書編集者で、社員の指示も受けず一人で仕事をして、二年間一人で頑張ったんですけれども、雇いどめを受けたということです。

 やはり、この一橋出版・マイスタッフ争議というのは、現在の格差社会の縮図であると思います。この争議は、格差社会の是正のために、すべての人の働く権利を確立して守る闘いであるとして、ただいま判決に向けて頑張っているところであります。

○高橋委員 ありがとうございました。

 時間が来ましたので、終わります。

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