国会質問

質問日:2007年 5月 8日 第166国会 本会議

社会保険庁改革関連法案 代表質問

 公的年金を運営する社会保険庁の解体・民営化法案の審議が八日の衆院本会議で始まりました。質問にたった日本共産党の高橋千鶴子議員は、公的年金は憲法二五条が定める国民の生存権を保障する制度であり、保険料の徴収から給付まで国が直接責任を持って一体的に運営し、継続性と公正性を担保するため公務員が業務運営を担ってきたことを強調しました。

 法案では、この年金業務をバラバラにし、競争入札で民間委託します。高橋氏は、損保ジャパンから登用された長官のもとでノルマ主義が持ち込まれ、保険料の不正免除を引き起こしたことをあげて民間委託の弊害は明らかだとのべ、「委託業者や従業員が数年ごとに入れ替わる制度で、確実で安定した運営は保障できない」とのべました。

 民間委託によって年金の個人情報の漏えいや、業者が自社の仕事に活用するなどプライバシー保護が危うくなると指摘。国が負担すべき事務費に年金保険料を恒久的に充てることは国の責任放棄であり、給付にあてるべき保険料の流用は許されないと批判しました。

 徴収強化のため未納者から国民健康保険証をとりあげ、期限付きの「短期保険証」を出すことについて、「年金保険料を納めなければ病院に行くなというに等しい」と批判。高い負担と低い給付を改めて、最低保障年金制度の確立など、安心できる公的年金制度に改善することこそ国民の願いだとのべました。

 安倍晋三首相は「管理運営や財政責任は国が負う」といいながら、「公共サービスの不断の見直しをすすめる」と民間委託推進を強調。保険料流用についても「妥当なもの」と正当化しました。

 民主党は、社会保険庁を廃止し、年金保険料を国税とともに徴収する「歳入庁」設置法案を提出しました。趣旨説明で「公務員削減や民間委託でスリム化ができる」とのべ、年金制度の安定運用を危うくする解体・民営化を競い合いました。

(2007年5月9日(水)「しんぶん赤旗」より転載)

 

――― 議事録 ――――

○高橋千鶴子君 私は、日本共産党を代表し、社会保険庁関連二法案について総理に質問します。(拍手)

 本法案は、これまで年金業務を担ってきた社会保険庁を解体し、新たにつくる非公務員型の日本年金機構に年金業務を行わせ、その業務の多くを民間委託できるようにする、まさに年金運営の民営化法案であります。

 初めに、年金業務の民間委託が何をもたらすかについてです。

 七千万人を超える国民が加入する公的年金は、憲法二十五条が定める国民の生存権を保障する大切な制度です。だからこそ、年金保険料の徴収から給付まで一連の年金業務を国が直接責任を持って一体的に運営し、公務員が運営業務を担い、継続性と公正性を担保してきたはずです。確かに、これまでの社会保険庁の運営には見過ごしできない問題があります。しかし、国民の大切な年金業務を民間業者にゆだねることで、どうして年金への国民の信頼を高めることになるのでしょうか。

 この間のどの世論調査でも明らかなように、国民が最も不安に思っているのが年金制度です。ことし一月の内閣府世論調査でも、医療、年金などの社会保障の改革を求める人は七割を超えています。国民が年金改革で切実に求めているのは、月額一万四千百円の保険料を四十年間掛け続けても、満額で月額六万六千円にしかならないという、高い負担と低い給付を何とかしてほしいということです。また、四割を占める国民年金の未納、未加入や、厚生年金では三割の事業所が未加入という制度の空洞化も極めて深刻です。

 こうした根本問題は、本法案でどう解決するのですか。今やるべきは、最低保障年金制度を確立するなど、国民が安心できる公的年金制度に改善することではありませんか。総理の答弁を求めます。

 公的サービスの民間委託の弊害は明らかです。

 この間、損保ジャパン副社長だった村瀬長官のもとで、徹底したノルマ主義と強引な収納率の引き上げが進められてきました。この結果が三十八万件を超える不正処理を引き起こしたのではありませんか。郵政事業の民営化でも、集配業務の廃止や局外ATMの撤去など、国民サービスの後退は明らかです。採算優先の民間手法は、既に国民との矛盾を激化させ、破綻しているのではありませんか。

 法案は、年金の適用、徴収、記録管理、相談、裁定、給付などの業務をばらばらにし、その多くを競争入札で民間委託するとしています。委託業者や従業員が数年ごとに入れかわる制度で、どうして確実で安定した運営が保障できますか。答弁を求めます。

 社会保険庁の在り方に関する有識者会議の最終とりまとめでは、公的年金制度は「国の責任の下に、確実な保険料の収納と給付を確保し、安定的な運営を図ることが必要」としていたではありませんか。この立場に本法案は逆行するのではないでしょうか。

 また、社会保険庁の解体と機構への移管に伴って、正規、非常勤合わせて約一万人もの社保庁職員を削減することが計画されています。年金業務に習熟した公務労働者を大幅に削減して、年金制度の安定した運営ができますか。

 法案は、あの国鉄民営化法にさえあった職員の引き継ぎ規定を一切設けていないのはなぜでしょうか。国による首切り、リストラは絶対に認められません。

 さらに重大なのは収納対策の強化です。

 法案は、国民年金の保険料の未納者から国民健康保険証を取り上げて、期限つきの短期保険証を発行するとしています。なぜ、年金と健康保険という目的の異なる制度をリンクさせるのですか。これは、年金保険料を納めなければ病院に行くなと言うに等しい国民いじめではありませんか。断じて許されません。

 また、保険料の滞納者に対する強制徴収を国税庁に委任するとしています。信頼に基づく保険制度と納税義務は全く性質の違うものであり、国税庁の権限をちらつかせて取り立てを強化すれば、年金制度への国民不信を一層深めるのではないですか。

 年金情報の流出も強く懸念されています。

 全国一律のオンラインシステムから絶対に情報が漏れないという保証がどこにあるのですか。民間業者に提供された個人情報が勝手に流用されたり加工されたりしない歯どめはありますか。市場化テストに参入する人材派遣会社や債権取り立て会社が、年金情報を民間保険の勧誘や商品開発など自社の業務に活用しないと言い切れますか。きちんと説明してください。

 保険料の流用問題についてです。

 そもそも、国民の保険料は給付に充てるものであり、給付以外に流用することは禁じられていたはずです。法案は、なぜ保険料を事務費に充てることを特例措置から恒久規定に変えたのですか。流用は国の責任放棄ではありませんか。

 一方、厚生年金病院や社会保険病院は、不採算医療など地域医療を支える中核病院としてなくてはならない存在です。無駄な大規模施設とごっちゃにして廃止、売却することは許されません。すべて国の責任で存続させるべきです。答弁を求めます。

 最後に、百年安心などといって年金制度の改悪を推し進めてきた政府・与党が、その責任を棚上げし、国民の年金不信の矛先をすべて公務員に転嫁することは決して許されないものであることを厳しく指摘し、質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇〕

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 高橋議員にお答えをいたします。

 公的年金業務の民間委託と国民の信頼についてのお尋ねがありました。

 今回の改革案においては、年金制度をより効率的に運営するため民間委託の仕組みを盛り込んでおりますが、厚生労働大臣が定める基準に基づき、業務が適正に実施されるよう管理を行き届かせつつ行ってまいります。

 また、公的年金の管理運営責任、財政責任は引き続き厚生労働大臣が担うこととしております。国として責任を持って、年金に対する国民の信頼の確保を図ってまいります。

 国民年金の改善や未納、未加入対策及び厚生年金の適用対策についてのお尋ねがありました。

 基礎年金については、適切な保険料負担と国庫負担の組み合わせにより、高齢期の基礎的な生活費用に対応する給付を生涯にわたり行う仕組みとしています。これは、負担と給付がそれぞれ見合った制度となっています。

 また、国民年金の未納、未加入対策については、従来から、二十歳に到達した方を基本的にすべて被保険者として適用するとともに、保険料を納めやすい環境の整備や未納者の負担能力に応じたきめ細かな収納対策を進めてまいりました。

 本法案では、こうした従来の対策に加え、市町村の国民健康保険の窓口を活用した保険料納付の促進策など、各般にわたる対策を盛り込んでおります。

 さらに、厚生年金の適用については、これまで行ってきた加入指導、事業所調査、職権適用という一連の対策をより強力に進めるために、本年度から各社会保険事務所ごとに具体的な行動計画を作成するなどの対策を進めております。

 最低保障年金制度についてお尋ねがありました。

 御提案の税方式による最低保障年金制度については、加入者がみずからの老後に備えて保険料を支払い、将来年金権を確保するという社会保険方式を放棄するのが適切か、巨額の税財源をどうするのかなど数々の問題があります。

 社会保険庁の抜本的な組織改革を実現するとともに、未納者の負担能力に応じたきめ細かな対策の徹底を図ることなどにより、社会保険方式のもとで国民の老後生活の安心を確保してまいります。

 ノルマ主義が国民年金の不適正処理を引き起こしたのではないかとのお尋ねがありました。

 明確な目標を設定して、これを達成するために組織を挙げて努力をすることは当然のことであります。過剰なノルマが不適正な事務処理を招いたとの指摘は当たらないと考えております。

 公共サービスの民間委託についてお尋ねがありました。

 公共サービスの提供のあり方については、国民の立場に立って不断の見直しを進めることが不可欠であります。政府としては、例えば公共サービス改革法に基づき、いわゆる市場化テストを推進しているところであり、今後とも公共サービスの不断の見直しを進めてまいります。

 民間委託と公的年金事業の運営についてお尋ねがありました。

 今回の法案においては、公的年金に係る一連の業務を新法人に行わせることとした上で、新法人はその業務の一部を委託することとしております。

 業務委託の範囲、委託先の選定基準、委託契約の方法等は、公的年金事業の業務が適正かつ確実に行われることを前提として定めることとしており、業務委託により、公的年金事業の安定的な運営が損なわれることはないと考えております。

 本法案と有識者会議の取りまとめについてお尋ねがありました。

 今回の法案では、公的年金の一連の業務を日本年金機構に行わせることとしておりますが、国が引き続き保険者として公的年金の運営と財政に関する責任を担うとともに、機構の業務や予算については国が直接管理監督するなど、国の責任をしっかりと果たす仕組みとしており、有識者会議の最終取りまとめの趣旨に沿ったものであると考えております。

 社会保険庁職員の人員削減についてのお尋ねがありました。

 社会保険庁の人員削減は、公的年金の安定的運営を確保することを前提とした上で、システム刷新による合理化、外部委託の徹底等を通じて計画的に行うものであり、公的年金の運営が損なわれることがないようにいたします。

 職員の引き継ぎ規定についてのお尋ねがありました。

 社会保険庁改革については、国民の信頼を回復するため、国民の視点に立った改革を断行する考えであります。

 したがって、年金新組織の業務にふさわしくない職員が漫然と新組織に移るといったことはあってはならず、このため、職員の引き継ぎ規定は設けず、第三者機関において厳正に採用審査することとしたものであります。この措置は、国家公務員法に対しても違法、不当なものではありません。

 国民健康保険の短期被保険者証の発行についてのお尋ねがありました。

 介護保険や医療保険の高齢者の保険料は年金から天引きされることとなっており、住民の年金受給権を確保することは、介護保険や医療保険の保険者である市町村にとっても重要な課題であります。

 このような中で、今回の措置は、市町村が短期被保険者証の発行を通じて保険料未納者との接触の機会をふやし、保険料の納付や免除の申請を促すことを可能とするものであり、必要な仕組みであると考えております。

 なお、国民健康保険の短期被保険者証は、通常の被保険者証と比較して有効期間が短いものであり、受診が抑制されるものとの批判は当たりません。

 国税庁への強制徴収の委任についてのお尋ねがありました。

 国民年金保険料の徴収については、ねんきん定期便などを通じて理解と信頼を高め、コンビニでの納付などで納めやすい環境を整備してまいります。その上で、一定の滞納者に対しては、これまでと同様に国税徴収の例によって強制徴収を行うものでありますが、悪質な事案については、ノウハウを有する国税庁に強制徴収を委任できることとするものであります。

 これらによって、保険料の徴収の公正さや効率性を確保し、国民の信頼を確保することができると考えております。

 年金個人情報の保護についてお尋ねがありました。

 年金のオンラインシステムについては、専用回線の使用等により、外部から侵入できない仕組みとなっており、個人情報の漏えいを防止しております。

 また、民間への委託に当たっては、利用できる情報は業務に必要な範囲のものに限定するとともに、関係法律においては、情報の漏えい、不正利用の禁止や安全確保措置が義務づけられており、これらを適切に運用することにより年金個人情報の保護の徹底に万全を期してまいります。

 年金保険料の使途についてのお尋ねがありました。

 今回の法案では、年金給付と密接不可分なコストである経費に保険料を充てることとしておりますが、これは、民間保険はもとより、他の公的保険や諸外国の例から見ても極めて妥当なものであります。重要なことは、無駄遣いは絶対にさせないということであり、そのための改革を徹底してまいります。

 厚生年金病院及び社会保険病院についてのお尋ねがありました。

 厚生年金病院及び社会保険病院については、地域の医療体制を損なうことのないよう、これらの病院が現に地域において果たしている役割をどのように維持していくかを念頭に置きながら、今後、整理合理化計画を取りまとめてまいります。(拍手)

▲ このページの先頭にもどる

高橋ちづ子のムービーチャンネルへ
街宣予定
お便り紹介
お問い合わせ
旧ウェブサイト
日本共産党中央委員会
しんぶん赤旗
© 2003 - 2024 CHIDUKO TAKAHASHI