国会質問

質問日:2018年 6月 8日 第196国会 厚生労働委員会

労働基準監督業務の民間委託問題、障害基礎年金支給打ち切り問題

労基署の民間委託 批判
高橋氏 「監督業務に抜け穴」

 日本共産党の高橋千鶴子議員は8日の衆院厚生労働委員会で、労働基準監督署業務の民間委託問題を取り上げ、「監督業務に抜け穴をつくることは認められない」と強調しました。
 厚労省は7月から全国の労基署で、残業を取り決める三六協定を届け出ていない事業所に対する自主点検票送付や回答取りまとめ、任意の相談事業などを民間委託します。
 高橋氏は、労基署には抜き打ち調査があり、民間による先行調査で阻害される恐れがあると厚労省自身が言ってきたと強調。加藤勝信厚労相は「監督官の権限に基づく部分はゆずらない」と答弁しましたが、高橋氏は「規制改革会議タスクフォースの八代尚宏氏は臨検業務まで委託化を主張している。それでは監督業務を守れない」と指摘しました。
 高橋氏は、委託先として社会保険労務士が有力視されているが、「社員をうつ病に罹患(りかん)させる方法」を自身のホームページに公表した社労士や、労使交渉を阻害して警察に書類送検された社労士らもいると指摘しました。
 加藤厚労相は「懲戒処分を受けていれば適切な者ではない」というだけで、悪質な社労士を排除する保障は示せませんでした。高橋氏は「全国社労士会は、無料の『労務診断ドック』を行っている。そういう取り組みへの支援にとどめるべきだ」と述べました。
(しんぶん赤旗2018年6月16日付より)

 

――議事録――

○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
 先ほど来、目黒区で起きた五歳の女児の虐待死亡問題について皆さんが取り上げられております。本当に、この世界で、たった一人であっても、親が子供を守ってくれるべきだと思うんだけれども、その親によって命を落とす、こんなむごいことはないと思います。
 ただ、私きょうは、報道ベースでぱっと、質問するほどの心の準備ができませんでしたので、先ほど来指摘がありますように、集中審議、また視察や参考人質疑など、この委員会として取り組んでいただきたいと思います。
 委員長にお願いします。
○橋本委員長代理 ただいまの件につきましては、理事会で協議をいたします。
○高橋(千)委員 では、きょう大臣が参議院に行かれる関係で持ち時間が分かれてしまいますので、質問の順番を変えさせていただきたいと思います。
 資料の二を見ていただきたいと思います。これは、「労基署業務を民間委託」という大きな見出しがあります。昨年の五月二十二日付の読売新聞の夕刊であります。大きな見出し、「初期調査 社労士に」とあるわけです。
 一段目の方に経過を書いているんですけれども、規制改革会議の答申案が出され、働き方改革の一環として罰則つき残業規制の導入を目指しているが、労基署は人員不足などのため、毎年対象の三%程度しか調査できていないのが実情だと。全国四百十二万事業所のうち、従業員十人以上で三六協定を届けていない事業所四十五万カ所を二〇年度までに重点的に調査すると決めたとあります。
 次のページを見てください、資料の三番。
 来月からこれをいよいよ始めるというんですね。それでいただいた資料なんです。「民間委託を活用した新たな取組」ということで、何かえらいシンプルなペーパーだなと思ったわけですけれども、全国の労基署で始めるということです。具体的に何をどのように行うのか、説明されたい。また、委託先としてどのようなところを考えているのかもお答えください。
○山越政府参考人 御指摘の事業でございますけれども、民間事業者を活用いたしまして、三六協定を届け出ていない事業場に対しまして、自主点検表の送付、そしてその回答の取りまとめ、それから、自主点検の結果、相談指導が必要と思われる事業場に対します労務管理の専門家による任意の相談指導を実施いたしまして、労使における適切な対応を促進する事業でございます。
 この事業でございますけれども、事業を効果的かつ効率的に行うためには、労務管理の知識や経験を有する方に事業を行っていただく必要があると考えておりまして、そのような観点から、公共調達を通じて適切な受託者を決定することといたしております。
○高橋(千)委員 今、労務管理の専門家を委託をして、効果的かつ効率的にとおっしゃいました。
 昨年はそれでパイロット事業を行ったということですが、その内容はどうなっていますか。
○山越政府参考人 平成二十九年度に、今年度からこの事業の全国実施を行うわけでございますけれども、これに先駆けまして、地域を限定した形で、モデル的な事業によりまして、本体事業を円滑に進めるための事務や手続の確認を行い、よりよい手法を検討するためにパイロット事業を行ったものでございます。
 事業内容といたしましては、自主点検の送付や取りまとめ、それから集団的な相談指導を実施したところでございます。
○高橋(千)委員 どこで、そして誰がやって、どのくらいの事業所、どんな効果があったんでしょうか。
○山越政府参考人 これは、対象の地域として千葉市を選んでおります。対象となった事業場が三千二百四十でございます。受託者は、公益社団法人全国労働基準関係団体連合会に委託をいたしまして、実施をしたところでございます。
○高橋(千)委員 最初からきちんと言ってくださいよ。そういうふうに通告をしているわけですからね。
 それで、実は、それはパイロット事業なわけですから、実際にどうだったんですか、問題なかったんですかと聞いたら、何にも来ないんですよ、結果が。どう評価しているんですか。
○山越政府参考人 このパイロット事業でございますけれども、調達の手続とか実施事務の流れを実際に確認するということの目的で行っておりまして、これによって得られました知見をことしの事業に反映するということでございます。
 例えば、この中では、事務の流れといたしまして、自主点検を効果的に間違いのないように回収するための工夫というものについて、回収後のデータの取りまとめ作業が行いやすいような記載の工夫、そういったことについてどうしたらいいのかということが知見として得られましたので、今年度の事業に反映するようにしているところでございます。
○高橋(千)委員 どうしたらいいのかというのを三千二百四十事業所相手にやって、問題がなかったというんですか。
○山越政府参考人 このパイロット事業でございますけれども、ことしから実施をいたします本体事業、その調達の手続とか事務事業、その流れを実際に確認するために行ったものでございます。その結果得られた知見につきましては、今申しましたように、ことしの事業に反映するようにしているところでございます。
 おっしゃっているのは、これが円滑に行えるのかということだと思いますけれども、自主点検表の発送と回収というのはそれなりの実施ができたというふうに考えておりますし、事務の手続として改善すべき点についてはことしの事業に反映するようにしていきたいというふうに考えているところでございます。
○高橋(千)委員 結局、結果がうまくいったとも問題があったとも何もないんですよ。まとめた紙がないんです。今紹介した、ことし七月からやる資料を、もっと字が少ない紙、一枚しか持ってきませんでした。それで全国の労基署で始めるんですかということを指摘したいんです。
 私、この問題は何度も質問しました。一年前の三月に質問したときは、ちょうど規制改革会議のタスクフォースが立ち上がったときでした。あのときも本当におかしかったんですよね。
 タスクフォースを立ち上げるということは、前年の十月、つまり半年前に決まっていたんです。だけれども、規制改革会議はいろんなテーマを扱っていますから、そのときは専門的検討を行うというだけで、タスクフォースを立ち上げましょうと、何のテーマかはそのとき決めていない。だけれども、八代尚宏氏が主査をやることだけは決まっていた。驚きの展開です。これは、八代氏が、その半年前から既に労基署の監督官業務を民間委託するべきだということを、持論をもう述べているわけですね。それがやはりできレースだったんじゃないかということを当時指摘をしたわけです。
 まさに、主査になって、三回のタスクフォースの会議の中で思いっ切りしゃべっているわけですよね。厚労省に、監督の中身がどうなっているのか、なぜ三%なのかと質問が浴びせられる中で、厚労省は、定期監督、重点監督などがあるけれども、抜き打ちで立入検査を行って、台帳とか書類の提出を求め、法違反があればその場で是正勧告を発出するんだ、それを一気にやる場合もある、そういうことが、非常に監督官の大きな権限ですから、重要な仕事なんだと。
 それを前払いだといって民間の方が先に調査をして、それは最初は紙ですけれども、その後に、指導もできますよとアポをとって行く。そうなったら逆に監督指導を阻害することになると思うんです。そういう指摘をさんざんタスクフォースの中で厚労省がしています。
 大体、野村不動産のときだって、あれだけ黒塗りの書類を出して、手のうちを見せられない、手のうちを見せたら、やはり指導に行く事業者が準備をしてしまうからだとさんざん言ったじゃないですか。
 タスクフォースで頑張って抵抗したけれども、諦めたんですかと言わなきゃいけない。大臣、どうなんですか。
○橋本委員長代理 山越労働基準局長。(高橋(千)委員「大臣に聞いています」と呼ぶ)
 大臣は後で補足させます。
○山越政府参考人 今回の事業でございますけれども、三六協定を届けられていない事業場に対しまして自主点検を促すということと、それから労務管理の専門家による任意の、希望されるところに相談指導を実施する、そして労使における適切な対応を促進していくという事業でございます。
 他方で、労働基準監督官でございますけれども、これは権限を有しているわけでございます。その権限に基づきまして、企業に立ち入りまして、法律違反がある場合は、そういったことを確認し、その是正指導をする。そして、問題がある場合は、刑事訴訟法に基づき捜査や書類送検をしていくわけでございまして、こういったことについてはしっかり監督官がやるということについては変わりがないものでございます。
○加藤国務大臣 規制改革会議当時の具体的なやりとりは承知をしておりませんが、いずれにしても、そういうやりとりを通じながら、仕分をして、今局長が言われたように、民間委託できるところと、そして監督官の権限に基づいて実施をする、これは絶対に譲るわけにいきませんから、そこの仕分をして、逆に、それ以外の仕事を減らすことによって、監督官が本来やるべき仕事、これに深度を深めてやれる、そういう体制をつくったというふうに承知をしております。
○高橋(千)委員 今、大臣、絶対譲るわけにいきませんからと言いました。だけれども、八代氏が言っているのは、臨検業務を一部民間委託していきたいということなんですよ。
 昨年五月二十三日の規制改革会議第一次答申は、「三六協定未届事業場であって就業規則作成義務のある事業場については平成三十年度開始、平成三十二年度までに措置、それ以外の事業場については平成三十三年度以降に計画的に措置、」要するに、更に今やることを広げるわけです。「なお、労働基準監督官による監督指導については平成三十年度以降継続的に措置」。「なお、」ですよ、監督官の仕事をなお書きにされているんですよ。おかしいじゃないですか。
 つまり、これは、ソフトスタートして、もともと臨検業務をやりたいと言った人を主査に選んだんですから、どんどん拡大しますよね。本当に守るつもりがありますか。
○加藤国務大臣 先ほど申し上げた、民間委託する部分と労働基準監督官がやるべきもの、この仕分、これははっきりさせていかなきゃいけないと思います。
 ただ、今もおっしゃった拡大の部分は、対象者を拡大をしていくということでありますから、それは今、とりあえず十人以上については平成三十年度開始して三十二年度まで、それ以外についてということですから、十人未満については平成三十三年度以降計画的に、これはそういう形でやっていくということであります。
 ただ、重ねて申し上げますけれども、本来、労働基準監督官がその権限に基づいて実施すべきもの、これは監督官においてしっかりやらせていただきたいと思っております。
○高橋(千)委員 それを本当に大臣が決意をして、どこまで持っていくのかということが本当に問われていると思うんです。
 大体にして、この規制改革会議は、大臣は呼ばれていませんので。担当大臣が違いますので。そういう中で、土屋審議官が頑張って監督官の仕事とはこういうものだと訴えてきたんですよ。ところが、提出する側になると、いやいや大丈夫と言っているんじゃ、本当に残念に思いますよ。重ねてこれは指摘をしたいと思います。
 それで、民間委託の有力候補となっているのが社労士さん、二万六千人対応できますとお答えしているわけです。もちろん、私は、お世話になっている社労士会の皆さん、尊敬しておりますし、労働法制の専門家として活躍されているのは十分承知しています。しかし、中には、企業の代弁者となり労使交渉を阻害するなど、あるいは事務所のホームページ上で法抜け行為の指南役ともとれるような情報発信をしている社労士さんが残念ながら散見されるわけです。
 資料の四枚目を見てください。
 平成二十八年三月三十日、基準局長、年金管理審議官連名による通達です。「社会保険労務士の不適切な情報発信の防止について」。社労士の懲戒処分が過去最高だった二十四年度と同様、十一件発生している、二段落目、社員をうつ病に罹患させる方法などの内容を公に発信した、この事案を重く見て再発防止策を全国社労士会に求めたものです。これは本当に重大ですよね。
 専門家だけれども、専門家ゆえに企業の代弁者となって利益を得ようとする、こうした社労士がもしも事業を受託するようなことは絶対あってはならぬと思いますが、大臣はいかがですか。
○加藤国務大臣 まず、受託云々以前として、社労士がこういう行為をやることは大変問題であるし、許してはいけないというふうに思います。
 その上で、この事業の調達に際しては、必要な参加資格を定めて適正に行うこととしておりまして、本委託事業を受託した民間事業者は、労務管理の専門家を選任し相談指導を行うものでありますけれども、当該選任に当たっては、不適切な者でないことや当該業務に従事する際に職務に専念することなど、適切に事業が実施できる者を選任させるということにしているわけでありますから、それに沿って対応させていただきたいと思っております。
○高橋(千)委員 大分トーンが弱い、そう思いますね。
 このときに通知を発出しているんですが、その後も事件は起きています。そもそも私自身も何度か取り上げたことがありますが、ホームページで就業規則に正社員登用制度と書いておきなさいよと、それで有期雇用契約で雇って半年後に正社員にすれば助成金をもらえますよなどとブログで指南している社労士がいます、こういうことを指摘をしたことがあります。企業の皆さんお手伝いしますということをさんざん宣伝している、そういう方たちのホームページは今でも見受けられるんです。
 資料の5は、この通達を受けた後の全国社労士会の会長声明です。この通知が出た翌月の四月二十二日です。だけれども、違うことをまたやっているということですよね。「労働者を退職に追い込む代行業等の報道に関する会長声明」と。一部の報道番組において、社会保険労務士が企業から依頼を受けて労働者を退職に追い込むことを業としている旨報じられた、これが事実であれば全国四万人の社労士の信用を失墜させるものと強く述べているわけであります。これが二年前なわけですよね。
 ですが、残念なことに、ことし三月にも滋賀県で、ホテル経営会社と労働組合による団体交渉で、同社の代理人と受け取れる発言を社労士がしたとして、県警が非弁行為、弁護士じゃないのに弁護士のようなことをやったという疑いで、書類送検をするという事件もありました。
 実は、これとほぼ同様の事案で、個別の社労士のことで私が相談を受けている案件もあります。組合は社労士会にも要請し、厚労省に指導要請をしたと言っています。
 つまり、通達を出した後も繰り返されている、このことを本当に重く見なきゃいけないと思うんです。
 利益相反はないようにするんだと、顧問をしている企業に訪問はさせないなどと言っておりますが、だけれども、今言ったように、ホームページで宣伝をするような方たちに、もし、協定未届けのリストを渡す、そういう社労士がいれば、利益相反ではないんですよ、でも、営業リストになるおそれだってあるじゃないですか。本当にそれだけ重い関係なんです。年金相談や社会保険の未適用やいろんなことを社労士会に委託しているものだから、言えない、そういう関係になっては困ります。
 大臣、もう一度御答弁ください。
○加藤国務大臣 まず、社会保険労務士法に規定する懲戒処分ですね、こういった方は、もちろん適切な者ではないということであります。
 その上で、当該業務に従事する際に、職務に専念することなど適切に事業が実施できる者を選任させるとしておりますし、実際、この事業を実施するに当たっては、行政側が随時監査を行って、事業が適切に実施されるようしっかり対応させていただきます。
○高橋(千)委員 これで言い切りにします。
 資料の6を見てください。働き方改革支援宣言に関する具体的な取組について、全国社労士会連合会が理事会で決議。
 大臣自身が全国社労士会の新年祝賀会の挨拶で述べていたんですけれども、昨年六月に全国社労士会として働き方改革支援宣言を発表しているんですね。従業員五十人以下の事業所において、働き方改革について理解が不十分なところに無料の労務診断ドックを行います。すばらしいじゃないですか。三月末までなので、第一弾なんですよね。
 顧問企業に対してはもともと指導しているんだから、顧問もいないような小さなところ、これこそまさに三六協定も出していないような、そういうところを応援するとやっている。そういう自主的な取組を支援するでいいじゃないですか。しかも、社労士は、今回わざわざ入札してまでやるという。そうじゃなくて、そこを、今自主的な取組を応援する。
 しかも、社労士は、全国約二百名いる三六協定指導員などという肩書で、労基署の中で非常勤職員として雇用されている方もいます。本当に必要ならそういう形でするべきなんです。
 働き方改革と言いながら、上限規制などと言いながら、その一方で、民間委託、抜け穴をつくっていくことはやはり絶対認められない、このことを指摘をして、まず一部、終わらせていただきます。
 ありがとうございました。

 

――資料――

2018年6月8日衆院厚生労働委員会提出資料

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