国会質問

質問日:2010年 11月 26日 第176国会 厚生労働委員会

B型肝炎問題 ―参考人質疑

衆院厚生労働委員会で26日、集団予防接種で肝炎に感染した被害者が損害賠償を求めているB型肝炎訴訟問題について、参考人質疑が行われました。

 同訴訟弁護団・全国連絡会佐藤哲之代表は意見陳述で、予防接種で注射器を使い回せば感染すると国は知っていながら、40年間も放置していたとのべ、「国の加害責任は過失でなく故意に準じる」と指摘。

 厚生労働省の肝炎対策推進協議会委員で参考人の天野聰子氏も、B型肝炎も薬害C型肝炎も「感染の発生責任と拡大責任は国にあるのは司法の場でも明らかだ」とのべました。

 質問に立った日本共産党の高橋ちづ子議員は、持続感染者を含む原告5人全員に慰謝料を認めた06年の最高裁判決が「生かされていない」と指摘。佐藤氏は「国は最高裁判決を正しく理解していない」とのべました。

 高橋氏は、国の和解案では肝硬変を重症、軽症に分け補償に差をつけようとしていることを批判。

 天野氏は、C型肝硬変からガン発症をくり返して死亡した夫は身体障害者手帳の交付基準を満たせなかったとして、厳しすぎる基準をもとに「補償金に差をつけるのはおかしい」とのべました。参考人の東京慈恵会医科大学客員教授の戸田剛太郎氏も「賛成できない」と話しました。

(2010年11月27日(土)「しんぶん赤旗」より転載)

 

――― 議事録 ――――

○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
 本日は、参考人の皆さん、大変お忙しい中、本委員会に出席をいただきまして、また貴重な発言をいただきました。本当にありがとうございました。
 また、元原告の木村さんがきょう出席できなかったということは、本当に残念でなりません。また、私たちがこうした参考人質疑を開催するに当たって、やはり当事者の声を聞くというのが最大の趣旨でございましたので、先ほど来発言がございますけれども、原告を呼ぶべきであったと重ねて指摘をしたい、また、そういう機会を持つべきだということを委員長初め各委員にも要請をしたいと思います。
 時間の関係で、早速質問に入らせていただきます。
 政府が示した「和解の全体像に関する国の考え方について」、この中には、平成十八年最高裁判決が唯一の確定判決であり、この水準を踏まえるべきであること、このように述べております。
 そこで、最高裁判決、先行判決裁判を闘った佐藤参考人に、この意義についてもう一度確認をしたいことがございます。
 一つは、最高裁では損害賠償を争ったものではなく慰謝料であった、そして、キャリアも含め全員に支払ったということの意義が、ちょっと国が履き違えているのではないかという問題点を一つ私は持っております。
 それからもう一つは、先ほど来お話しされている除斥期間の問題ですけれども、先行裁判でも、高裁では慢性肝炎の方が二名、除斥期間で一度は除外の対象となったものを乗り越えて、最高裁では全員が認められたという経緯がございます。
 そうしたことから踏まえても、最高裁の水準がやっぱり今生かされていないと思うんですけれども、御意見を伺いたいと思います。

○佐藤参考人 おっしゃるとおりです。
 前の裁判では、私どもも、キャリアの方一名、それから慢性肝炎の方四名、五人の原告で裁判が争われました。損害については、両者共通した包括一律請求で一千万、弁護士費用を含めて一千百万の請求をして、そのうち五百五十万が認められたというわけです。その認定は、両者、つまりキャリアと慢性肝炎に共通するB型肝炎ウイルスに感染させられたことによる精神的苦痛に対する共通する部分について、五百万の慰謝料をもって償うべきであるという判断をしたものだというふうに考えております。
 そういう意味では、慢性肝炎について、そのこと以外の、休業損害とか治療費とかもろもろを考えると、慢性肝炎についてなお五百万と言っている現在の国の態度は、私どもは、最高裁判決の正しい理解ではない、こう思います。
 それから、除斥の点ですが、確かに今高橋委員御指摘のように、高裁では残念ながら二人、除斥で請求が棄却されました。しかし、高裁も、集団予防接種、幾つかあるうち一番最後のところを基準にして二十年を考えるべきだ、時の壁を破るために高等裁判所の裁判官も努力をされました。そういう意味では、形式的に接種から二十年というふうに考えることが不合理であるということは、高裁の裁判官も考えました。
 しかし、さらに最高裁は、ほかの事件の除斥についての考え方もベースにしながら、接種のとき、要するに形式的な不法行為をしたときではなくて、損害が発生したこと、そのときまで全体として起算点を考えないとおかしいのではないかという、ある意味では本当に常識的な考えをしていただいて、損害発生のとき、つまり発症のときから二十年という物の考え方をすべきだということで、原告五人全員について賠償を認めるという考え方をとりました。
 それをさらに押し及ぼせば、今回の無症候キャリアの方々についても起算点については考えられるべきだ、もっとさらに原理的には先ほど申し上げた点がございます。

○高橋(千)委員 ありがとうございます。
 大変明快な論理ではないかなと思います。やはり、正しい理解ではないのだという立場に立って今回の和解訴訟を解決すべきである、全面解決をすべきであるということを改めて思いました。
 引き続いて佐藤参考人に伺いたいと思うんですけれども、先ほど来の専門家である参考人の意見の中に、水平感染ですとか、そうしたことがちょっと議論があったと思います。例えば、ジェノタイプAが近年ふえているという問題、あるいは父子感染の問題など、裁判の中でも随分議論になって、紛れ込みがあるのだ、なので因果関係が薬害よりも低いということが政府の言い分の根拠になっているのではないかと思います。
 ただ、この問題も、十七年間の先行裁判でも随分議論されて克服されてきた経験でもあると思うんですけれども、改めて、弁護団はこのことについてどう考えているのか、伺いたいと思います。

○佐藤参考人 他原因の問題については、先ほど一番最初に申し上げましたように、確かに、抽象的に考えればいろいろなルートが考えられます。そういった人の、国の言葉をかりれば紛れ込みを防ぎたいというのは、それはそれで一つの考えかもしれません。
 しかし、問題なのは、いろいろある中で、紛れ込みを防ぐということを理由にして、明らかに感染被害を受けた被害者の方のかなりの数を一緒に排除してしまう立場に立つのか、そうではなくて、明らかにそうではない人を認定する方法を考えて除外整理をしていくかということを考えた場合に、法的には後者の立場、明らかにほかの問題とは違うものならばともかく、父子感染とかジェノタイプの問題というのは私どもは違うというふうに考えています。
 父子感染というのは、最高裁のときにも他原因の一つとして議論をされました。家族内感染の一つとして。しかし、例としては、あること自体は私どもも否定しません。しかし、極めてごくわずかで、日常生活上そういったことは基本的に問題にしなくてもいい、国自身が言っている問題であります。
 今、父子感染を問題にされたのは、垂直感染の母子感染あるいは集団予防接種による感染が制御された結果、残された問題として父子感染の問題があるというだけの問題にすぎないわけで、このことをさかのぼって過去のごく一部の、あるかもしれないごく一部の問題を今さら過大に取り上げて問題にしているというのは、少なくとも過去の責任の処理の問題と比較した場合に、過去の問題を考えているときにその問題を持ち出すのは、もう既に終わった問題を蒸し返しているという問題だと思います。
 それから、ジェノタイプの問題については、最近、そういった成人後感染による慢性化というのは、ジェノタイプAeの問題について、あること自体は私どもも否定しません。しかし、これも基本的には、要するに、B型の基本的な性格を持ったものの一部が成人後感染でも慢性化することがあるというふうに言われているだけで、先ほど来お二人からもお話があったように、遷延化、要するに治療が長引くという問題と、慢性化するということとの区別が必ずしも十分でない。どの程度の割合で慢性化するかということについて、まだきちっとしたエビデンスがあるという状況ではない。
 それから、私どもが今、損害賠償を争っている原告らの感染時期からすると、これはもう問題にされる時期ではなくて、現実に原告の中にも、大阪原告の中には二歳ですか、要するに、成人後感染が問題にならないAの方がおられます。ですから、Aであればイコール成人後感染という話ではなくて、Aの中のごく一部が成人後感染の慢性化の問題。
 そうすると、そういった方のうち、明らかに成人後感染による慢性化というふうに言える方について、国側の反証事項として問題にすべきであって、ジェノタイプの問題を問題にする、あらかじめ原告側がそうでないということを立証することを求めるのは、これは民事訴訟の立証責任の分配の考え方からいってもおかしいのではないかというふうに私どもは思っております。

○高橋(千)委員 ありがとうございました。
 もう少しここも深めたいと思うんですけれども、ちょっと時間の関係で、先に天野参考人に伺いたいと思います。
 壮絶な御主人の闘病の一端をお話ししてくださったと思います。肝炎対策協議会の中でも、生前の手帳を証拠として示されて訴えていらっしゃるということも承知をしております。
 先ほど議論になった、身体障害者福祉法に基づく内部障害に肝炎も含まれるようになった、肝機能障害も含まれるようになった。それ自体は、本当に長年の日肝協の要望でもあって、本当によかったと思っているんですけれども、お話があったように、その基準が大変厳しく、天野さんの御主人がC型肝硬変から肝がんを何度も再発されて亡くなったにもかかわらず、対象外であるというお話があったと思うんですね。
 今回、実は、B型肝炎の補償の水準についても、肝硬変が軽症、重症ということで分けられまして、その分ける基準が、今おっしゃったチャイルド・ピュー分類に基づいている。やはりこういうような差別をするべきではないと私は思うんですけれども、御自身の経験から踏まえて、一言御見解をいただければと思います。

○天野参考人 先ほど申しましたように、主人はチャイルドCの分類になったことはあるんですけれども、それが三カ月続くということは一度もございませんでした。もう手術の後で、死ぬ前一カ月ぐらいですけれども、そのときはチャイルド・ピュー分類Cですけれども、それは一カ月弱ですから認定基準には入りません。
 そういうことで、この認定基準というのは、人間らしく生きるために認定基準をつくっていただきたいんですよね。死にかけていてもうどうしようもなくてというときに認定基準でされても仕方がないんです。
 それで、今、チャイルド・ピュー分類のCということなんですけれども、主人の場合ですと、かなり状況が悪いときでも多分チャイルド・ピューのB、あるいは手術する前は、肝硬変の末期の状態でしたけれども、チャイルド・ピューで見るとAだったんです。
 というのは、このチャイルド・ピュー分類というのは、血液検査と、それから肝性脳症ですとか腹水ですとか、そういうことを基準にして見ているんですけれども、肝臓の状態というのは、手術したときに見たんですけれども、本当に岩のようにかちんかちんになって、完全な肝硬変でございました。ですから、非代償性の肝硬変という状態だったんですね。
 ですから、チャイルド・ピュー分類を基準にするのではなく、非代償性肝硬変になったら認定していただきたいというのが私の気持ちでございます。

○高橋(千)委員 ありがとうございます。
 そこで、質問の趣旨は、今回のB型訴訟の場合も、薬害のときは肝硬変に差がなくて、肝がん、死亡した方と同じ扱いだったんですけれども、肝硬変の中に軽症と重症という形で今の分類が持ち込まれる、同じ肝硬変の患者であっても差をつけるというふうなことが持ち込まれているわけですね。そういうことがやはりおかしいのではないかと私は思うんですけれども、いかがですか。

○天野参考人 そうですね。先ほども申しましたように、BとCで分けるというのはおかしいと思いますし、Aだとしても、もっと悪い人もいるわけですから、そこら辺のところで重症度を分けてしまって補償金を分けてしまうというのは、私はおかしいとは思います。

○高橋(千)委員 ありがとうございます。
 最後になりますけれども、佐藤参考人にもう一度伺いたいと思うんです。
 先ほどのジェノタイプのお話なんかが実は関連しているのかなと思うのですけれども、薬害とB型肝炎をなぜ差をつけるのかというときに、やはり相当程度の因果関係が低い、薬害より低いというような表現をしております。しかし一方で、政府自身が、集団予防接種が義務だった四十年間の対象年齢のすべての国民が予防接種を受けたということをちゃんと前提にして、しかも全員が検査を受け、今三割だという数字があるのに、全員が検査を受け、全員が私はキャリアですと名乗り出るというような、過大に掛ける過大のような数字を出して最大値の二兆円、八兆円という数字をはじいているというのは、私は非常に矛盾ではないかと思うんです。
 弁護団はこれに対してもう既に論破をしていますけれども、簡単に説明をお願いしたいと思います。

○佐藤参考人 先ほども申しましたが、資料三に、数字の問題については申し上げています。
 数について国の方は、ここにあるように、要素としては、キャリアの方がどのぐらいいるのか、そのうち予防接種による方がどのぐらいいるのか、さらに、そのうち立証可能な人がどのぐらいいるのか、それから、提訴する可能性のある人がどのぐらいいるのかということであります。
 それぞれのところについて、過大になおかつ誤った数字を置いて人数を計算して、それぞれの金額を当てはめて、二兆円あるいは八・二兆円という数字を出しています。
 それぞれのところに問題だということを具体的に挙げておりますが、例えば、予防接種を原因とする感染者の割合について、国の方は七割というふうに試算をしておりますが、二割ないし三割という文献もございます。それから、立証可能性については、私どもに寄せられる提訴希望の方々、残念ながら、要件に合致する人は一割程度しか北海道の場合はおりません。そういったようなことをいろいろ掛け合わせますと、この資料三に書きましたように、和解金額の総額は、国の試算の本当に十分の一を大きく下回るというのが現実的な数字ではないか、こう思います。
 むしろ、先ほど、検査の割合が三割というふうな数字が挙がっていました。これは、やはり国が、先ほど七カ年計画でも言ったように、感染経路として集団予防接種が原因だということをちゃんと踏まえて、このことを広報して、あなたも感染している可能性がありますということをちゃんとお伝えして、それでさまざまな条件で検査を受けるということを保障しないと本当の掘り起こしにならないんだろう、こう思います。
 そういう意味でも、改めて国の責任をきちっと自覚して、広報することを含めて、その前提を整えてもらいたい、こう思います。

○高橋(千)委員 ありがとうございました。
 原告団の皆さんと一緒に接している佐藤参考人は、原告の皆さんが提訴にたどり着くまでにいろいろなものを乗り越えて、しかも障害がさまざまあったということをよく知っているからこそ、政府の言っていることが非常に過大であるというのを実感できるんだと思うんです。それはもう、きょう傍聴している原告の皆さん、同じ思いでいらっしゃると思うんですね。
 ですから、そういう数字だけが前に出て、しかも、国民の理解という言い方をして、何か莫大なお金がかかるんだからこれは難しいんだというふうな議論に国が持っていこうとすることは、やっぱり違うんだということを強く主張いたしまして、質問を終わりたいと思います。
 きょうはありがとうございました。

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