紙智子・高橋千鶴子著 「食の安全よりアメリカが大事?」−−牛肉輸入再開に異議あり!

(新日本出版社)¥1500

「はじめに−不安の中の輸入再開」より

 2006年7月27日、政府は米国産牛肉の輸入再開を決定しました。6月に小泉純一郎首相(当時)が訪米した際の「手みやげ」として

ブッシュ大統領にそれを約束、農林水産、厚生労働両省が6月24日から、7月23日までの事前調査を行って、「日本への輸出条件が

満たされた」として、決定されたものです。

 しかし、本当に大丈夫なのか、という懸念はぬぐえません・・・・・

 この本は、米国産牛肉のBSEの危険について、あらためて、この間わかってきたことをふまえつつ、一連の経緯を、国会で活動して

きた著者二人の目からみてまとめたものです。読者のみなさんに、日常生活・食の安全に直接関わっているこの問題が、日本の政治

のありように以下に深く結びついているかを知って頂きたいと思っています。・・・・・

 さまざまな懸念・不安を残しながらの輸入再開。今後も何が起こるかわかりません。それだけに、国内でのBSE発生から5年、アメリカ

のBSE発生・輸入中止からの3年近くという経過の中で見えてきたことから、何を教訓にすべきなのかはっきりさせておく必要があります。

本書が、それに役立つ情報を提供できるなら、大きな喜びです。

2006年9月

紙 智子

高橋 千鶴子

この本を読み、ことを契機にして日本の政治の根本問題を知ってほしい

元衆議院議員 松本善明

 日本の政治が世界でも異常な一つの特徴は「アメリカ言いなり」ということです。その程度は著名な自民党の国会議員が「日本はアメリカの一州のようなものだ」と平然というくらいです。

 この本は、アメリカ産牛肉の輸入再開問題を材料にして、そのことを、日本共産党の二人のタイプの違った美人国会議員の体験、質問や対談、アメリカでの調査を含めた豊富な資料を駆使して明らかにした、ユニークでちょっと他に例を見ない興味深い著書です。

 「BSE問題」には日本の農民の運動が。法律まで制定させた貴重な成果が満ち満ちています。日本の国民の食と安全と、日本農業を守ったこの成果が、アメリカのもうけ主義で崩されようとしているのが現在の問題です。この本は、日本の農家の涙ぐましい努力、日本国民の食の安全を守る運動、それらの要求と活動に寄り添うようにこの問題を解明しています。

 この本をよ見込むことによって、日本の政治を根本から国民のためのものに変えることの必要性を多くの人に知ってもらいたいと切に思うものです。

『日本の科学者』2007年5月より転載

【書評】

『食の安全よりアメリカが大事?―――牛肉輸入再開に異議あり』

                           紙智子 高橋千鶴子 著

本書は、BSE(ウシ海綿状脳症)発生に伴う、米国産牛肉の輸入禁止と再開の経緯についてのレポートである。

 BSEの原因はウシに肉骨粉を与えたことにあるが、そもそもそれは、くず肉の処分と効率的肥育のためであった。日本でBSEが発生すると、牛肉生産は深刻な打撃を受けたが、全てのウシの履歴を追跡可能にし、二重の鋭敏な検査を行うことで、安全性・透明性が確保され、食の安心・安全を取り戻していったのである。

 本病についての日米両政府の施策には重大問題があった。米国での安全管理はまことにずさんで、本書で実態が丹念に明かされる。しかし、牛肉業界と米国政府は日本に強引かつ傲慢に輸入再開を迫る。一方、日本政府は、早期に肉骨粉投与の危険性を知っていながら国内での使用を放置した。米国には早期の輸入再開を約束し、国内向けには、正確な情報を隠したり、農水省に置いた専門委員会を不正常に運営してまで、輸入再開を強行してしまう。「日本は科学者のいうことを尊重しない社会です」と無念を語る元委員の言葉は、私たちにとっても重い意味を持つ。

 著者の紙氏と高橋氏は、当時それぞれ参議院・衆議院で農林水産委員を務めた。両氏は科学者ではないから、BSEの学術的解説や先端的な情報を期待してはいけない。私が驚かされたのは、専門家でない両氏が、日本の生産農家と消費者とを守る立場から、必死に問題を理解し、国内外で精力的に調査し、膨大な資料を整理して大胆に国会質問や農水省交渉に当たる、その勤勉さと有能さである。それは政治家という専門職が紛れもなく存在することを思い出させる。まさに、党派を超えて尊敬されてよい。

 このように本書は、BSEという新興人畜共通感染症と、日米のゆがんだ外交・経済関係という2つの難題に直面した、至って普通の女性が、国会議員の職責を自覚して苦闘してきた、普通ならざる記録なのである。それは日本社会の病巣と転換の方向を巧まずして白日にさらしてもいる。

 終章は両氏の対談である。いささか安易な構成と思ったが、読めば、両氏が北海道・東北で長年活動する中で培ってきた、日本の食や農への思い、その担い手への尊敬と共感が率直に語られる。意外にも、出色の読みものであった。

                             亀山 統一 (琉球大学)



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