2004.5.13(木) 農林水産委員会


諫早湾干拓開門調査

見送り表明は再検討せよ

高橋議員、農水相に求める

日本共産党の高橋ちづ子議員は十三日の衆院農水委員会で、亀井善之農水大臣が諫早湾干拓事業にかかわる中・長期開門調査を実施しないと表明したことをとりあげ、漁業関係者や自治体、住民の願いを踏みにじるもので断じて認められないとのべました。

 開門調査は、ノリ不作・漁業被害などの有明海異変と干拓事業との関連を解明するため、農水省が設置した第三者委員会が二〇〇一年に実施を提言したものです。

 高橋氏は、熊本、福岡、佐賀の各県議会を含む三十四自治体で調査の実施を求める意見書が採択されていることや、「一枚三十円のときもあったノリの値がいま三円から十二円だ」「もう漁業をやめざるをえない」との漁業者の声をあげ、政府の姿勢を追及。

 農水省が開門調査の代替策として行うとしている環境調査について「調査の結果、干拓事業と異変との関連が明らかになった場合、事業を中止するか」とただしました。

 亀井農水相は「新たに調査をおこなっても、諫早湾干拓事業が有明海の環境に大きな影響を与えることになるとは考えていない」と答え、事業を中止する考えはないことを明らかにしました。

 高橋氏は「やる前から結果がわかっているような調査を調査とはいわない。漁業者が納得できる調査をおこなって(開門調査を)再検討することを求める」とのべました。

(2004年5月14日(金)「しんぶん赤旗」より転載)


159-衆-農林水産委員会-15号 平成16年05月13日

○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。きょうは、農協法の質疑に先駆けまして、お許しをいただきまして、今月十一日に亀井農水大臣が表明した諫早干拓の中長期開門調査を実施しないという発言に関しまして質問させていただきたいと思います。

 よみがえれ!有明海訴訟弁護団が、同日のうちに「今回の農水省の対応は言語道断であり、強い憤りを覚えざるをえない。」と抗議声明を出しておりますが、この問題を一貫して取り上げてきた日本共産党として、断固抗議をしたいと思うものであります。

 御承知のように、中長期開門調査については、二〇〇一年、ノリ不作等第三者委員会が、「諫早湾干拓事業は重要な環境要因である流動および負荷を変化させ、諫早湾のみならず有明海全体の環境に影響を与えていると想定され、また、開門調査はその影響の検証に役立つと考えられる。現実的な第一段階として二カ月程度、次の段階として半年程度、さらにそれらの結果の検討をふまえての数年の、開門調査が望まれる。」と提言をしました。

これを受け、熊本、福岡、佐賀の県議会では開門調査を求める意見書が決議をされ、その後の周辺自治体は、私が把握しているだけでも三十四の市町村から意見書が上がっております。

 当日の西日本新聞の夕刊には「官僚のシナリオ通り 憤る地元漁業者」という見出しが躍っておりまして、「十分な説明がなく、判断したのは誠に残念」という佐賀県知事や、「漁業者に誠意をもって説明していただきたい」という熊本県知事、「突然の発表に驚いている」という福岡県の副知事のコメントなどを報道しております。

しかも、大臣自身が先ほど楢崎委員に述べたとおり、発表の直前には、福岡、熊本、佐賀の県議会、そして県の漁連の代表者が上京し、開門調査の実施を求めたばかりというではありませんか。大臣は、こうした地元の声をどう受けとめているのか、伺いたいと思います。

○亀井国務大臣 今回の判断につきましては、今までの経緯、そして私自身も、有明の再生、これをどうするか、これは漁業者の皆さん方、地域の皆さん方と同じ気持ちであるわけでありまして、一日も早い有明の再生、この道筋をどうするか、こういう視点、そして技術検討会議、その報告書、あるいはまた、私も現地に参りましたし、あるいはまた、いろいろの団体の皆さん方からもお話を承り、我が省の関係者にもいろいろの指示をし、意見も聞き、そして総合的に判断をし、一日も早い有明の再生、そういう面での道筋をぜひ、地元の皆さん方の、今回お示しをしておりますような調査、あるいはまた一緒にいろいろ話し合いをする場、そういう中で有明の再生ができるように、私はこのように考えております。

○高橋委員 一日も早い有明の再生と、思いは同じだという大臣のお話ですけれども、そのために漁業者の皆さんが望んでいるのは何なのか、それにこたえる政府の方針なのかということが問われていると思うんですね。

 実は私、ことしの二月に、ノリ漁の最盛期とも言えるころだと思いますが、諫早湾に行ってまいりました。佐賀から船に乗せてもらいまして、ノリの漁場も見てまいりました。まだこの辺はいいところだというところと二カ所行ったんですけれども、全然違いがわかって、素人目から見ても色落ちしているのがわかりました。

 案内してくださった漁師の方は入札の台帳を直接持参をして、この数字を見せてくださって、全く値がつかない、ここも、ここもという形で示してくださいました。一枚二十円ないと採算がとれないところが、調子のよいときは三十円のときもあった、でも今は三円から十二円程度だ、そういうことが訴えられたわけです。

 また、会場を移して福岡で漁業者の皆さんと懇談したときは、ノリ漁場一小間につき七十万から八十万必要だけれども、ことしは五十万だ、もう網は引き揚げてしまった、以前は風が吹いてもよかったけれども、諫早からのプランクトンのせいで色落ちがするんだ、もう漁業をやめざるを得ない、そういうせっぱ詰まった声がこもごも聞かれ、中長期の開門調査こそが有明再生の道だと訴えられているわけです。

 そこで、きのう、大臣の、漁業者の皆さんへというコメントが寄せられておりますが、それを見ますと、有明海のノリ漁を含めた漁業環境に影響を及ぼす可能性があることがわかったとして、調査を行うことにより新たな被害を生じるような事態は避けたい、それが一番の理由に上っているわけですね。漁業被害が最大の理由になっている。漁業者がやってくれと言っているのに、それが理由になっている。これは一体どういうことなのか、具体的にその被害の中身、お願いいたします。

○太田政府参考人 お答え申し上げます。諫早湾の湾奥部でございますが、潮の満ち引きの差が大きくて、約六メーターにも及びます。約七キロメーターの幅で、以前はゆったりと潮の満ち引きが行われておりましたが、潮受け堤防が設置され、その二カ所に二百五十メーターの排水門、これを備えた現在の状況でこれを常時開放いたしますと、鳴門の渦潮に匹敵する速い流れをこの排水門の周辺近くに毎日二回起こすことになります。

 短期の開門調査では、すぐにでも調査にかかれるように排水門の開く幅を調整いたしまして、この速い流れが起きないように調査いたしましたけれども、ノリ不作等第三者委員会では、開門はできるだけ長く大きいことが望ましいと言われておりますし、また四月三十日にいただいた漁業者からの要望でも、調査に当たっては大きな水位変動を伴うようにすることとあることから、中長期開門調査では常時大きく水門をあけることとなり、必然的に極めて速い流れが生じるわけであります。

 そういたしますと、この強い流れによりまして、まず排水門をあけた際に水を調整池の中に入れるわけですけれども、この強い勢いで流れ込む海水によりまして調整池の中の潟土がえぐられ、この潟土が調整池内に広がります。次に、干潮になりますと、この大量の潟土がまざった水が逆に調整池から諫早湾に向かって強い勢いで流れ出し、排水門の外側の潟土をえぐりながら湾内に広がっていく。これを繰り返しながら諫早湾外にまで広がり、三十日後には熊本沖にまで接近するという結果が得られております。これによって、私どもは、有明海の漁業等に大きな影響を及ぼすことを懸念いたしておるわけでございます。

 このために、海底の潟土がえぐられやすい範囲の海底にブロックなどを敷き詰めるということで対応することを検討いたしましたが、それでも排水門を出入りする水の流れの速さそのものは遅くなるわけではなくて、漁業環境に予期し得ない影響を及ぼすおそれがあるということでございます。

 ちなみに、潮受け堤防を締め切る前でございますけれども、北部、南部排水門の幅二百五十メーターの五倍近い千二百メーターの幅から海水が出入りしていた時期がございました。そのとき、中長期開門調査で行う速さの半分以下の流速にもかかわらず、諫早湾沿岸部のアサリ漁場に被害があったという過去の事実を考えれば、常時開門によります諫早湾内の潮流の大きな変化は、安定してまいりました諫早湾内、ひいては有明海の漁業環境に予期し得ない影響を及ぼすおそれがあるというふうに考えたところでございます。

○高橋委員 その鳴門の渦潮よりも速い潮の流れの問題は、そもそも潮受け堤防七千メートルの中で排水門が二百五十メートルという幅だ、だからその中で一気にそこに流れ込むということで速くなるという説明なわけでしょう。それは、それをつくってしまった側の論理であって、だから、その潮受け堤防に対して意見を上げていて、そういう被害があったとしてもやってみてくれという漁業者の声にどうこたえるのかということが言いたいわけなんですよ。

 それで、短期開門調査を始めるときに、農水省は「皆様の疑問や懸念にお答えします」という冊子をつくって説明をしております。例えば、海水導入が進むにつれて海水による希釈や塩分による凝集効果で排水による影響は小さくなる、そうやって説明をしているわけですね。

 それについて、元中央水産研究所室長の佐々木克之氏が、「実際に短期開門調査を実施した結果、観測値は、浮泥の濃度を示す値が開門直後に高く、一週間もすると低くなっており、農水省予測は正確だった」と評価をしており、影響も小さいことが農水省の観測結果からも明らかにされているわけですね。

 だから、農水省は、最小限に食いとめる、そういう調査をすることが実際にはできるし、短期調査でも一たんそういうことができたわけですよね。その中での一定の効果があったと思うわけですね。だから、そうしたことを最小限に食いとめながら、中長期の開門調査をやるということも検討できるのではないか、ここをお伺いします。

○太田政府参考人 短期開門調査当時の関係者への説明は、ともかく、先ほど申しました、流速を最低限に抑えて、そっと入れてそっと出す、そういう方法をとったわけでございます。

 今回の調査については、最初、いかにそっとあけたとしても、ある時期にその最大流速に到達するわけでございますので、そういった意味で、この流速そのものを抑えるということは、調査の方法としてできないということを高橋先生には御理解を賜りたいというふうに思います。

○高橋委員 ですから、そっと入れるのを少しずつやって、中長期にやったらどうだと。それから、コンピューターによるシミュレーションではなくて、実測データと比較してこそ本当の意味の調査じゃないのかということが科学者からも指摘をされているわけですよね。そのことは今指摘をしておきます、時間がないので。

 次に、一方、中長期開門調査には十年もかかる、成果が必ずしも明らかでないということが言われているわけですよね。これは先ほど楢崎委員も指摘したように、第三者委員会の後、これを解散させて、農水省と旧建設省のOB七名でつくった中・長期開門調査検討会議が報告を出して、席上、開門調査するには六百三十億かかるという試算を示した。金もかかるし時間もかかると。もう最初から、だったらできないと。いいだけ開発を進めて、約二千五百億も使って開発を進めておいて、調査にはお金がかかると。そういうのはおかしいわけですよね。

 ただ、その指摘が生きたんですか。今回の大臣の報告には数字は出てきませんけれども、今でも六百三十億と思っているんですか。

○太田政府参考人 調査を実施すれば幾らかかるか、六百三十億という話でございますけれども、この試算でございますけれども、排水門を全開した状態につきまして概算した結果でございます。

 ノリ不作等第三者委員会の見解では、できるだけ大きく長い開門が望ましいとされ、また、先ほど申しましたように、漁業関係者からも、大きな水位変動を伴うようにと要望されております。

 この場合、排水門を小さくあけて穏やかな流れで行った短期の開門調査とは異なりまして、非常に速い流れで海底の潟土がえぐられ、漁業等に影響を及ぼすことが懸念されますので、潟土がえぐられやすくなる流速、約一・六メーターと言われておりますので、毎秒一・六メートルを超える範囲、つまり、百五十万平方メートルの範囲の水中に大きなコンクリートブロックや石の塊を敷き詰めるという工事を行うために必要な費用を算定いたしまして、まず四百二十億円と見積もったわけでございます。

 また、諫早湾などの背後地の排水につきまして、現在、調整池の水位をマイナス一メートルに管理しております。この現状と同じ安全性を確保するために必要な排水ポンプの規模、これを排水量で毎秒、合計で百五十五立方メートルとなりまして、これは費用を十四施設を合計して約二百億円と見積もったわけでございます。その他若干の費用を加えまして、六百三十億となっております。

 なお、事前の環境影響評価や設計につきましてはこの費用に含めておりませんし、また、さらには、調整池内の塩水化のように、代替水源の確保ができず有効な対策を講ずることができないようなものも同様に費用に含めておらない事情にございます。

○高橋委員 では、今のお答えですと、六百三十億は生きているということですね。この根拠についてはまだ不明であるし、そんなにかかるはずはないという意見があるということをまず指摘しておきます。きょうは、そこは言わないけれども。

 ただ、仮に中長期にお金がかかったとしても、しかし、これからずっとかかっていく漁業の被害、これまでに生じた被害に比べたらそれは小さいものじゃないか、漁業者の立場に立ったら、そういうことが言えるんじゃないですか。

 では、代替策をやると発表しましたよね。例えば、環境変化の仕組みのさらなる解明を行う調査と言っていますね。貧酸素現象の一斉観測だとか赤潮の観測だとか、あるいは改善のために湧昇流施設を設けるだとか、これが、予算は三年ですけれども、では、一体どのくらい代替策にお金がかかるんですか。

 それから、これはあくまでも現地実証であって、これから先の本当の再生に向かったら三年じゃないですよね。一体何年かかるんですか。具体的に答えてください。――大臣に聞いています。済みません、これは通告してありますので、大臣にお願いします。

○亀井国務大臣 有明海の再生への道筋を明らかにすること自体、これは必要と考えております。中長期開門調査にかわる方策として、有明海の環境変化の仕組みのさらなる解明のための調査、有明海の環境改善のための現地実証及び調整池の水質対策を進めていくとの判断をこの間行ったわけであります。これらの取り組みにつきまして、今年度直ちに取り組むことができるものを中心に調査の内容などを示しており、来月にもその取り組みを開始することと考えております。

 なお、今回示した内容は、農水省の方からの提案と考えておりますとおり、今後、漁業者の皆さんの意見などを踏まえまして、平成十七年度の概算要求においてその内容の充実を積極的に図ってまいりたい。また、これらの方策の期間は、今年度から三年間を目途と考えておるわけでありまして、現時点でその規模などを固定的にとらえるということは適当ではないと考えております。

 しかし、漁業者の皆様の思いをできるだけ受けた方策となりますよう、いわゆる新たな話し合いの場を早急に設置する。そして、漁業者側の皆さん方からのいろいろのお考え、こういうものも話し合いの場でいろいろ伺って、そしてその対応を図ってまいりたい、このように考えております。

○高橋委員 一切お答えがないわけですね。

 それは十七年度の要求だというお話ですけれども、しかし、一方では、中長期には六百三十億かかるという数字がひとり歩きして、一方では一切わからないと。

漁業者と話し合いをすると言ったって、話し合いになりませんよ。全然具体的じゃないじゃないですか。それはもっと明確にして、その上で判断をするようにしてください。

 それで、私、あわせてどうしてもこれは聞いておきたいんですけれども、今回の調査の中身、代替策の調査の中身で、水質や赤潮や貧酸素現象の一斉観測、例えば有明海全域を七十ブロックに区切って漁船を使って一斉観測するなど、幾つかの観測をやると言っていますね、底質も調べるなど。その中で、もしも、やはりこれは干拓事業と何らかの関係があるよという結論が出たときは、工事を中止することはありますか。

○亀井国務大臣 今、前段のお話の、いろいろの調査、それはそれぞれいろいろ調査手法等々もあるわけでありまして、それらに基づきましてその予算措置も変わってくるわけであります。

 この調査によって、私どもは、この環境の変化のさらなる解明のための調査を新たに行っても、諫早湾干拓事業が有明海の環境に大きな影響を与えることになるとは考えておらないわけであります。これまでの調査では、潮受け堤防による締め切りの影響は、諫早湾周辺海域にとどまっているとの結果を得ておりまして、環境の変化のさらなる解明のための調査を新たに行っても、先ほども申し上げましたとおり、諫早湾干拓事業が有明海の環境に大きな影響を与えることになるとは考えておりませんので、先ほどの、中止をする、こういうようなことでの御質問でありますけれども、今回のこのような考え方のもとに、有明海の再生への道筋を明らかにしてまいりたい、このように考えております。

○高橋委員 済みません、時間になりました。

 調査をやる前に影響がないとわかっている、結果がわかっている調査、そういうのは調査と呼ばないと思います。漁業者が納得できるはずがない。納得できるような調査をし話し合いをし、再検討をしてくださることを求めます。

 きょう、農協法の問題で通告をしておりましたが、時間の関係でできなくなってしまいました。申しわけありません。来週、必ず質問したいと思います。終わります。



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